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Short Story
1
女であることをとうの昔に諦めた政宗だったが、今の状況を不愉快に思っているわけではないように見えた。
鍛え、無駄な贅肉は一切ついていなかった腹は今は大きくふくれ、その中に小さな生命が宿っていることが見て取れる。
女当主の突然の懐妊に驚いていた家臣達も、今では落ち着きを取り戻している。相手は誰だと強く問いつめてきた守役にすら、政宗は腹の子の父の名を明かさなかった。男の影など、微塵ほども無かった主人の腹が次第にふくれてくるのを、今は微妙な面持ちで見守っている。

「御子のご様子はいかがですか?」
「順調順調。元気すぎてこっちが困ってるくらいだぜ」

腹の中で壁を蹴られるのがくすぐったいのか、政宗は時折嬉しそうに顔をゆがめる。それが面白くないはずであるのに、やはり主人の幸せは自らの幸せなのか、小十郎もその表情を見て次第に笑みを浮かべるようになった。

「・・・お前のことだ。なんとなくこいつの父親が誰かわかってんだろ?」

腹を擦り、母の表情で呟かれた言葉はしかし、決して穏やかな色を含んではいなかった。
小十郎は答えない。

「殺すなよ」

決して聞きたくはない言葉であった。施政者としてではなく、女としての自分を優先させてしまったのか、と小十郎は政宗に絶望を覚えた。否、ただ単に嫉妬しているだけかもしれない。何年も側についていながら彼女の希望となり得なかった自分と、ほんの数回刃を交えただけで彼女の光となった虎の子。
悲痛な面持ちで小十郎が政宗を見やると、しかし想像とは違った表情を主は浮かべていた。
母となる女性とは思えないほどに殺気に燃える隻眼。

「あいつを殺すのはこの俺なんだからな」

そうすれば、そこで初めてあいつは俺のものになるんだ。完全に。
その遺伝子を身に宿し、他にその血がばらまかれる前に己の手でそれを断ち切る。
女の執念とはこれほどまでに恐ろしい物なのか。否、歪んだ愛しか与えられなかった主故の愛情なのか。
止める術を、小十郎はもはや持ってはいなかった。

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