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Short Story
1
空を見上げれば抜けるような青空であったが、地面は昨夜まで降り続いていた白銀で埋め尽くされていた。
全てが雪に覆われた世界は何もかもが太陽の光りを浴びてきらきらと反射し、政宗は自然と目を細める。常人よりも色素の薄い隻眼はじゃっかんであるが、光りを好まなかった。
しかしそれでも政宗はその視線を庭へと投げ掛けたままである。否、正確な視線の行方は空であった。
冬が訪れるとできることは限られてしまう。毎年のことであるとは言え、政宗は日頃暇を持て余していた。
そんな中知らされた恋人の訪問に、政宗は期待で胸を膨らませていた。もちろん、ただ単純に会えることも嬉しいが、手持ち無沙汰になりがちなこの冬で話し相手がいるだけでもかなり違うのだ。心待ちにして姿を現すであろう方角を眺めてしまうのも仕方の無いことだろう。
そして、どれほどの時間が経過したであろうか。轟音と共に南西の空から巨大な何かが姿を見せる。何も知らない者が見れば、大きな鳥だとしか思わないだろう。だが、その『鳥』と思われるものには羽ばたく翼はない。その上、身に纏うものは羽毛ではなく、硬質な輝きを放つ鋼だ。どう見ても『鳥』には見えなかった。
しかし政宗はその『鳥』が何であるのか理解していたので、その反応は口元に笑みが浮かぶだけでとどまった。―――雪に閉ざされ人の出入りも減る奥州であるが、そんなものはあれには関係ないらしい、と。
轟音が近付き、そして雪の積もる庭へと降り立った。『鳥』の正体は本多忠勝であったのだ。そして、彼が来たということは、つまり―――。

「独眼竜!」

忠勝の背中から姿を見せた男を視界に認め、政宗の笑みがさらに深くなった。
家康、と政宗が男の名を呼ぶと、引き寄せられるように男が政宗のもとへと駆け寄る。そうするのが当たり前であるかのように政宗が腕を広げ、家康も躊躇いなくそこへと飛び込むようにして抱き着いた。
勢い余って、政宗の身体が床へと倒れる。ぱさり、と乾いた音をたてて鳶色の髪が広がり、その一房を家康は手にとって自らの唇へと運んで口づけた。流石の伊達男は髪にも香を染み込ませているのか、ふわりと政宗が好んでいる香が香る。鼻腔から肺を満たすようにその香を吸い込み、家康が口を開いた。

「会いたかった…お主が隣に居ないだけで、冬の寒さがさらに身に染みるのを感じたぞ」
「uh…少し会わない間に口がうまくなったようだなぁ?」

政宗のその言葉は、誰から教わったんだと言いたげな口調ではあるが、表情は穏やかだ。家康もそれに対して特に慌てた様子を見せない。ただの戯れであると言うことを互いに理解していた。

「そう言ってくれるな。たまらなくなってこうして会いに来たんだ」

なあ、政宗。と、家康の政宗への呼称が二人きりのときのものに変化した。気が付けば、家康の向こう側の庭にいるはずである鋼の巨体は姿を消している。気を使ってくれたのであろうか、と政宗が思っている間に唇に触れる柔らかな感触があり、瞳を閉じた。

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あきゅろす。
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