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Short Story
2
三成は人としての最低限の生活もできているかあやしいような人間である。使われている様子の無いキッチンや、空っぽの冷蔵庫。綺麗好きではあったので部屋は散らかってはいなかったが、家康から言わせればむしろそれは部屋に何も無いということだった。リビングのテーブルは大学の課題の資料やノート以外はのっておらず、固形栄養食品の包装だけがごみ箱に入っているような、三成の部屋とはそういう部屋だった。少なくとも、前回の訪問までは。
しかし今はどうだろう。台所でただ鎮座するのみだった食器洗い機は体内の皿達を洗浄中で、コンロの上にも火は突いていないとはいえ何やら鍋がのっている。リビングのテーブルにはマグカップが二つ置かれ、しかも手づくり感漂うクッキーまでそこに存在していた。それだけではない。一番驚いたのは、無駄に大きいと思っていたプラズマテレビにゲーム機が繋がれていたことだ。コントローラーが二つあるということの意味を家康は考えるのをやめた。想像するのがなんだか恐ろしくなったのだ。
変貌した部屋はどこか雑然とした印象があったが、しかし以前よりも安心できると家康は安堵した。人が生活している、という事実がそこに感じられるからだろう。そして 、その源は間違いなく、今台所にいる隻眼の青年だ。きっと世話好きな性格をしているのだろう、と自身以外に三成を見ていてくれる存在がいることに喜びを感じた。
よく三成をみてみれば、家康から見ればまだ細いと感じさせるとは言え、以前よりも肉付きがよくなったと思う。土気色をした肌も生気が宿っているだろうか。何にせよ健康的になりつつあるようだった。
しかし、三成が他人と共同生活をおくれていることが家康には驚きだった。それだけ三成が心を許していると言うことなのだろう。秀吉や半兵衛以外に心開き関心を持つということが、少し想定外だった。そんなことを思っている間に、家康の分のマグカップを持った政宗が台所からやって来た。

「コーヒーでよかったか?」
「ああ。ありがとう」

なんだよ、アンタにも友達いるんじゃねえか俺ビックリしたぜ、と言いながらごく自然に三成の横に座り、マグカップの中を飲む青年は三成に遠慮がない態度だったが、当の三成は不快そうな表情を浮かべることなく青年の言葉を聞き流していた。三成も青年の行動につられるようにマグカップを持つ。家康が、二人の手にしているマグカップが色違いの同じデザインであることに気付いたのはこのときだった。

「俺は政宗。今色々あって、ここに世話になってるんだ。アンタの名前は?」

そのマグカップの事実に思考が停止した家康が青年の問いに答えることが出来ず、こうなることを予想していたのか三成が肺の中を全て出す様な溜息を吐いた声でようやく正気に返ることとなった。

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