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Short Story
1
石田三成という人間は、何事にも基本的に無関心である。彼が唯一反応を示す事柄は、彼の後見人である豊臣秀吉とその右腕の竹中半兵衛のことのみで、それ以外には全くと言っていいほど食指を動かさない。下手をすると生命活動すらも疎かになるこの男を、家康は数少ない友人として心配していた。
秀吉とは多少付き合いがあるという理由も手伝い、家康が様子見(という名の生存確認)に三成のマンションを訪れることはそう珍しくないのだが、しかし部屋の主は訪れる度に心底嫌そうな顔をするので、煙たがられない程度にと心掛けていた。
そんな三成には友人が少ないとは言え、それは家康一人ではない。彼を心配するものは他にもいるのだが、一人は病弱で入退院を繰り返し、一人は根無し草であちこちフラフラしており、一人は女性だが「かいがいしく世話をして周囲に誤解されても困る」と三成のマンションには近寄らなかった。
そんなわけで三成のもとに人が訪れることはあまり無い。
なので、呼び鈴を鳴らした後に扉を開けた人物が家主と違うなど、想像もしなかったのだ。

「…アンタ誰?」

警戒心丸出しな視線を寄越すのは、右目に眼帯をした青年だ。威嚇をするような瞳は一つきりとはいえ、その眼差しは思わずすくんでしまいそうな覇気があった。
なんと説明すればいいのか、と思いながらも口を開こうとしたとき、青年の身体が部屋の中へと引き込まれ、代わりに見慣れた人物が姿を現した。三成だ。

「…何をしに来た」
「いや、ちょっと様子を見に来たんだがな」三成の表情が些かいつもより焦りが見えるのは間違いなく、それは彼の背後に押し込まれてしまった青年が原因だろう。湧き出る好奇心におもむくままに、家康があまり広くない三成の肩の向こう側に見えるチョコレート色の頭髪を見ると、三成の目が家康を射抜くように睨みつけた。感情の起伏が乏しい三成にしては珍しい事象だった。

「彼は友達か?よければ紹介してくれないか?」

それは三成の背後の青年も同じ気持ちらしい。先程から三成の肩越しに感じる興味深そうな視線に悪意は感じず、さきのような敵意にも近い警戒はなりを潜めている。

「Hey三成。とりあえず中に入れたらどうだ?」

玄関先で立ち話でもな、と青年はすでに家康を招く心づもりらしく、部屋の中へと消えて行った。それを見て三成も観念したのか、自身の身体で行く手を阻むようにしていた扉から、大変不本意そうな表情を浮かべながらも退き、家康がその後ろ姿に着いていくように部屋に入る。するとそこは、今までの三成の部屋とはまったく違う空間になっていた。

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あきゅろす。
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