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Short Story
2
親しげに話をしている二人の会話は三成の耳には入らず、その視線は女性に向かったままだった。

「・・・家康の友達か?」

その言葉で、会話の矛先が自身に向かったことを知り、ようやく三成は慌てて視線を家康に逸らした。

「友人になった覚えはない」
「そう言わずに仲良くしてやってくれよ。あ、俺は政宗」

よろしくな、と差し出された手は握手を求めているのだろう。一瞬、どうしようか考えた後にその手に触れてみたいという欲が勝った。白い掌に手を伸ばし、握ると柔らかく温かい。
よろしく、とかけられた声に思わずああ、と答えた。
その様子に家康が驚いたのが、三成にも感じられた。それも当たり前だと、三成自身も自覚していた。人と親しくなることに興味がない三成が、人からの挨拶に愛想が良いと言えないものではあるが、ちゃんと応じたのである。
握手をしていた二人の手が離れる。それを三成はどこか惜しく感じたが、いつまでも手を握っているわけにもいかなかった。

「あ、俺そろそろ行かなきゃ・・・松永教授から手伝い頼まれてんだ」

細い手首に飾られるように存在する腕時計をちらりとのぞきながら政宗は言った。その時計の作りは繊細なもので、そのセンスの良さからますます彼女が家康の知り合いと言うのが信じられなかった。
不可解だ。そんな感想を三成は隠しもせずにいた。周囲からなんと思われようとも気にしない三成は、己の感情を取り繕うことに努めることはない。
去り際にそんな三成の表情が気になったのだろう。政宗が去り際に口を開いた。

「そんな仏頂面でいるなよ。男前が台なしだぜ?」

人差し指を向けられながらの言葉に感じるのは、無礼さではなく摩訶不思議な力だった。その様に、幼い頃に見たアニメの魔法使いが脳裏に浮かんだ。人差し指からきらきらと輝く魔法を駆使して、ほうきをまるで生き物のように動かした魔法使い。動かないものを動かす奇跡を、今間違いなくこの女性はやってのけた。
しかし、三成の心境に変化を与えたことなど知る由も無い政宗が、家康に別れを告げるのを見て、激しく脈打ちはじめた三成の心臓は魔法がかけられる前よりも動きを鈍くした。その笑顔は、三成に魔法をかけるときのものとはまったく違う。
政宗の背中はすでに遠く、三成は家康に問い掛けた。

「貴様、あの女と…」
「やはりわかってしまうか?」

気恥ずかしそうに頭をかく家康の頬は赤い。
胸が苦しいのは魔法が解けないからだ。ああ、きっと彼女は魔法使いではなく、その弟子のほうなのだ。
ほうきに水汲みをまかせた弟子はそのあとどうなった?
三成は沸き上がった考えを振り払うようにかぶりを振った。私はほうきではない。ほうきは、魔法使いの意志に反し壊れされて、最後には師匠の魔法使いの手によって動けなくなった。
三成はそうはなりたくなかったので、とりあえず魔法使いと同じところに立つために、人間らしくあろうと笑う練習をはじめることにした。

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あきゅろす。
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