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Short Story
2
そんな憂鬱な気分で、昼間での時間を過ごした。食堂へ向かう廊下に、見慣れた後ろ姿を見て心臓がどきりと高鳴る。いつもは、大好きな人を見つけてときめくその音は、今は不安で占められている。
声をかけるのを躊躇っていると、気配に気が付いたのか政宗がこっちを見て近付いてきた。俺のこと空気とか言ったクセに、ちゃんと見つけてくれるなんて、酷いよ。そんなんじゃ俺、政宗とお別れしたくなくなるじゃないか。

「…どうした?泣きそうな顔しやがって」

え?いやいやいや。原因あなたなんですが。てか、これから別れ話するんじゃないの?
何も言えずにいる俺に何か勘違いしたらしい政宗が、食堂内でも落ち着ける席を見つけて俺をそこに座らせた。でも、自分から無理に話を引き出そうとはせず、俺が口を開くのを待つその姿勢は、政宗自身が普段から自己の中で考えがまとまってから話をするスタイル故の行動だ。尤も、むしろ考えがまとまりすぎて話がぶっ飛んだりするんだけど。
その様子に、俺はようやく理解した。ああ、俺、勘違いしてるっぽい。

「政宗は、別れたいとか、思ってないよね?」

確認のためのその言葉に、政宗のそれまでの穏やかな雰囲気が、とたんに緊張感で張り詰められたものになった。

「…別れたいのか?」
「や、違うけど、確認」
「んなわけねぇだろ。見ててわかんねぇか」
「…だって、俺のこと空気って」

言ったし、と続けようとしたが、政宗が途端に口元を手で覆って「しまった」という顔をしたので、これ以上口を開くのをやめる。政宗と俺の中で「空気」という表現に理解の齟齬があったことがここで明らかになったが、こうなると政宗は何故「空気」という表現を使ったのか、という疑問がわいた。

「ね、何で空気なの?」

いまだ口元を覆ったままの手の中から「これだから文系は」とか聞き捨てならない言葉が聞こえた気がするがこの際置いておく。なんで?なんて聞きはしたものの、理由はもうわかってるんだ。
空気:内訳は水蒸気を除くと酸素や窒素。無色透明。
空気が無いと、呼吸ができなくて生きていけないもんね!
それをあんたの口から聞かないかぎり、極限まで落ち込んだ俺の心は持ち直せない。
きっと、意地悪な顔になっているであろう俺を忌々しそうに睨む政宗が、いつになったら喋ってくれるのか俺は楽しみで仕方がなかった。

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