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Short Story
1
勉強はあまり得意じゃなくて、でも親には大学くらいは出ておけって言われて、なんとなく地元大学の文学部に入った程度のおつむでは、彼が言ったことの意味を正しく理解することができなかった。

「アンタ、空気みたいなヤツだよな」

そう言ってのけたのは、理学部の伊達政宗。一年前から、所謂お付き合いをさせていただいている人物だ。
キスもセックスももちろん経験済みな俺達。多分、政宗が女の子だったら今頃妊娠3ヶ月ってくらいに、俺達はお互い好き合っているカップルだろう。尤も、男同士だからそんなことにはならないし、もし女の子だとしたらちゃんと避妊する。世間的にもあまりよろしくないから開けっ広げな関係にはできないけど、それでもまあ、俺達は充実した関係を築き上げていた。
でも、どうやらそう思っていたのは俺だけだったみたいです。

「…空気?」
「空気」

聞き返しても悪びれも無い表情で、政宗は同じ言葉を繰り返した。どういうことですか、政宗さん。思わず敬語で問いただしそうになったとき、予鈴が鳴り響いた。政宗は次のコマで必修の講義を取っている。案の定、「じゃあ」と手を挙げてスタスタと歩いていってしまった。
俺とは違って、ちゃんと夢や目標を持って日々勉学に励む政宗は、必修であろうがなかろうが講義をサボることがあまり好きではなくて、たとえここで俺が引き止めたとしても機嫌を悪くするだけだ。呼び止めるために俺は半ば浮いてしまった右手を腰の横に戻した。
空気。存在感無いってこと?俺一応政宗の恋人だよね?それとも空気程度の存在にしか見えないから、お別れしましょってこと?あまりの突然の恋人の発言に、俺は混乱しまくった。もともと、政宗の言動には言葉が足りなかったり突拍子もないものが多い。自分の中では順序や経緯がちゃんとあるらしいが、それを周囲がわかるわけないのだ。多分、今回も彼の中ではちゃんと筋が通った考えがあったのだろうが、それを説明されていない俺は絶賛混乱中だ。混乱のあまりに図書室にいって、空気のことを調べにいってしまったくらいに。
空気:内訳は水蒸気を除くと酸素や窒素がほとんど。無色透明。
元素記号や意味のわからない単位や数値がたくさん盛り込まれた文章から引き抜いた情報は、俺が知っているものと大差ない。

「空気とは恋愛なんて出来ないもんねー…」

ほろり、とこぼれ落ちそうになる涙を天井を見上げることでこらえる。
昼食のときにでも、この話の続きはされるのだろう。これまでの一年間とても楽しかった。政宗の中で、俺の存在が空気にしか感じられなくなってしまった理由がいくら考えてもわからなかったけど、きっとそれも政宗の中ではちゃんと説明が出来るんじゃないかな。いつもそうだった。過程は自分の中で済ませちゃって、結果しか俺に伝えてくれない。政宗の悪い癖に困惑する日々ももうおしまいなのだ。

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あきゅろす。
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