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Short Story
1
三成が大学に通っている理由は、身寄りのない自身を引き取り育ててくれた恩人のためである。今、彼の横をきゃいきゃいと甲高い声を上げながら通り過ぎていった女子学生や、そんな彼女達に声をかけようとしている軟派な風貌の男達のような怠慢さなど、彼の中には微塵も存在しない。学校は勉強をする場所であって色恋をする場所ではないというわけだが、彼の場合学校でなくとも色恋などしないだろうと、数少ない友人達は思う。
何故友人が少ないのかというと、三成は顔は整っているのだが、常にへの字になっている口元と冷徹さを感じさせる鋭い目は周囲にいい印象を与えない。しかも、話をしてみても彼はかなりの偏屈だった。もっとも、本人に友達を作ろうという意欲がないので増えないと言うのもあるだろう。
徳川家康は、そんな数少ない友人の一人であると言えるだろう。三成はそうだとは思っていないが、家康は三成のことを気にかけていたし、周囲から見れば家康と三成は仲が良さそうに見えたので、少なくとも他人ではない。
なので、家康はキャンパス内だろうと街中だろうと、三成のことを見かけたらすぐさま声をかけるようにしていた。どこか不健康そうな印象を与える彼のことが、純粋に心配だと言うのもあるかもしれない。
「よう。三成」そう言って姿を見せた家康に、三成は一瞬表情をしかめて足を止めた。無視をしてもいいのだが、同じ講義をいくつか取っているためにそれの連絡事項を知らせることもあるのだ。
しかし、今回は顔を見たので声をかけだだけのようだった。昼飯は誰かと食べる予定なのか、ちゃんと寝てるのか、と聞かれるのは三成からすれば余計なことだった。
その程度の用ならば三成が付き合う理由はない。苛立ち気味に家康の前から立ち去ろうとしたときだった。

「家康!」

聞き慣れない女の声だった。男臭く朴念仁の家康に女の知り合いがいたとは、と失礼なことを思いながら、三成は思わず足を止めた。
どうせボクシング関係で仲良くなったキングコングみたいな女なんだろう。と声の主へと視線をやって、切れ長の目を見開かせた。そこにいたのは、キングコングではなかったのだ。
華奢というわけではないが、別段何か身体を鍛えているという風にも見えない一般的な体系。あえていうなら、細いジーパンに包まれた脚のラインが美しいと思ったが、ひと際目を引いたのは女性の瞳だった。右目は長いチョコレート色の前髪に隠れて見えないが、長い睫毛に縁取られたアーモンド型の左目は、光の加減で蒼にも金にも見えた。顔の作りが平凡というわけではない。むしろ、すっとした目鼻立ちは上品さを感じさせ、おそらくほとんどの人間が美人に分類するだろう容姿の持ち主だった。しかし、三成にはその一つだけの瞳が強い印象を与えた。

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あきゅろす。
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