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Short Story
1
大学の友人達との飲み会はとにかくハメを外しがちだ。
週末、おのおの缶チューハイや缶ビールを持ち寄り、バーでアルバイトしていて練習も兼ねてリキュールやウィスキー等をかなりの数おいている元親の家になだれ込むのはもはや定番である。趣味のギターを思う存分練習できるように防音処置が施されたアパートの一室は、6〜7人がゆったり座れるくらいには広いし何より元親のアパートは大学から近いのだ。
いつの間にかそろえられている人数分のグラスに元親は、「これじゃあいつまで経っても彼女を呼べねぇな!」と呵々と笑ったが、「そもそもそんなものいないだろう」とすぐさま元就の突っ込みが入る。幼なじみだと言う彼らに遠慮は存在しなかった。
そんな風景を見ながら、家康は残り少なくなっていた手中の缶ビールを飲み干した。すでに皆アルコールがある程度入っており、彼のいつもよりも早いピッチに誰も気がつかない。今日は飲みたい気分だった。とことん酔いたい、とも思っていたが、ザルを通り越してワクの彼はおそらく今日も最後まで酔えないだろう。そして、結局酔いどれどもの悪酔いの世話をして、疲れて眠りにつくのだ。
そんな酔いどれどもの一人、三成はすでにノックアウト気味だった。隣でテーブルに突っ伏している。近くにあるジンライムが入ったグラスは彼のものだが、グラスがかいた汗がテーブルを濡らしていた。
その三成をはさんで、家康とは反対側に座ってピーチリキュールとウーロン茶を半分ずつで割ったレゲエパンチを延々と飲み続けているのは政宗だ。かなり濃いレゲエパンチを、今日はもう彼女は何杯飲んでいただろう。東北出身者特有の白い頬は薄ピンクに染まっていた。
家康が今日、とことん酔いたい理由がこの二人だった。
二人が所謂恋人同士になったのは、2ヶ月前のことだった。最初は犬猿の仲だった政宗と三成であったが、何がどうなったのか男女の仲になっていたのである。
家康がそのことを知ったのは、3日前だった。その日、携帯電話をサークルの部室に忘れた家康は、二人が部室内でキスをしているのを見てしまった。それまでまったく気がつかなかったのは、あまりにも二人の雰囲気が以前とかわりがなかったからだ。
次の日、三成におそるおそる聞いてみれば、普段は無表情を通り越して仏頂面な三成が、真っ赤になってそれを肯定した。その瞬間、家康は失恋と今まで何も言ってこなかった親友に、世界が終わったような錯覚がした。
彼も、政宗に恋をしていたからだ。
たしかに、最近飲むときはいつも二人は隣り合って座っていたなと、今更ながらにあちこちに散りばめられていたヒントに気がつく。
飲まなければ、やってられなかった。こみ上げる涙を誤魔化すように、新しい缶ビールに手を伸ばしてタブを引いて、ぐい、と喉に流し込む。いつもよりも苦いような気がするのは、傷心しているからだろうか。

「なんだぁいえやすー!今日はなんか暗いなぁ〜!」

すっかり出来上がっている慶次が家康の肩を抱いた。落ち込んでいるというのに、アルコールが入ってしまった彼らは容赦ない。

「よぉし!いえやすを元気づけるためにぃ、もとちか!だっちゅーのしろよ!」
「あぁっ?んでだよ!?」
「だってだっちゅーのって、パイ○ーツがやってたじゃん!もとちか、海賊なんだろぉ?」
「俺は海の男だけど海賊じゃねぇよ!」

だが!と続けて元親が立ち上がった。

「海の男は細かいことを気にしねぇ!」

彼はやるつもりである。というか、普段の元親であれば断る内容であるが、見た目や口調と異なり相当酔っているのだろう。
しかも、隣の元就も巻き添えにして「だっちゅーの!」と逞しい胸筋を寄せている。元就は顔が真っ赤で足下もおぼつかない。朧げな意識で隣の元親の物まねをしているのだろう。これはおそらく翌朝記憶がないパターンだ。というか、元就の性格的にもし覚えていたとしても覚えていないフリをするだろう。
ギャハハハハ、と隣で大声で笑う慶次の声に、思わず家康は耳を塞いだ。

「でもよお・・・やっぱこういうのは女がやんねぇとなぁ」

と、元親の隻眼が家康の少し横を一瞥した。その視線の先には、瀬戸内コンビのだっちゅーのをぼうっと眺めていた政宗がいた。そうとう酔っているとは言え、話題が自分に降り掛かって来たのは理解していたのだろう。んあ?とどこか頼りない声を出した後に、飲み干したレゲエパンチのグラスをテーブルに置いて立ち上がった。

「ん?なに?だっちゅーのすればいいのか?」
「そうそう。まさむね、Fカップくらいあんだろぉ?」
「ばかやろう!Gだ!おめーのめはふしあなか!」

話の内容が少しおかしな方向へと向きはじめたことに、家康は焦り出した。自身の片思い相手で、親友の恋人がこのままでは性的嫌がらせを受けるのではないか。むしろこのまま酔った勢いで・・・なんてことになってしまったら、大変なことになる!そう考えてしまう辺り、家康も少し酒で判断力が鈍っていたのだろう。あるいは、親友と片思い相手の予期せぬ熱愛の事実に動揺していたのかもしれない。彼らは酔ったところでそういったところは踏み外すはずがない、という信頼感がこのときすっかりどこかへ行ってしまっていた。
おい、お前の彼女大変なことになるぞ、と隣にいるはずの三成に声をかけようとしたが、それは叶わなかった。そこに三成がいなかったのだ。いつの間に、と思っているとトイレからえづく声と水が流れる音が聞こえる。

「おい!鶴の字もやれ!まあ明らかに胸足りてねぇけどよ!」
「まあ、失礼ですよ!これは機能性重視なんです!」
「鶴ちゃん、元親の旦那は貧乳は希少価値だってことをわかってないんだよ」

ああ、お前もか、とメンバーの中ではわりと強い佐助と普段はあまり飲まない鶴までもがおかしな発言をし出していることに、家康は頭が痛くなった気がした。普段金魚の糞のように引っ付いている幸村は、すでに部屋の隅っこで寝息を立てている。
俺がなんとかしないと、政宗の谷間の危機だ・・・!そうは思うが、酔っているとは言え慶次の力は強くその拘束は解けそうにない。

(なんで今日に限って、みな泥酔しているんだ・・・!)

いつの間にか慶次の腕は肩から首もとへと移って、そのホールドは気道を圧迫しだした。次第に遠のく意識に霞んでいく視界が、前屈みになろうとしている政宗を見たが、決定的瞬間を見る前に家康の意識はブラックアウトした。

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