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Short Story
1
「ああああああああぁぁああぁぁぁぁっ!!!」

紅を塗ったように赤く色づく唇から溢れ出すのは、思わず小刀を手放し耳を塞ぎたくなる様な悲鳴だった。普段の小十郎ならば、舌を噛んだり、食いしばって奥歯を砕いてしまうかもしれないと配慮に気がついたのだろうが、多少なりとも動揺していたのか、その鼓膜を切り裂かんばかりの甲高い声を聞いて、彼はしまったと後悔する。
しかし、ここまで来て手を止めることなどできるはずもない。

「もうしばらくの辛抱でございます」

白いが、雪のようには儚くなく、大福餅のように柔らかな肌にさらに刃を入れていく。刃先に堅い感触を感じると、器用にその原因を取り除いた。血で真っ赤に染まったそれは、敵の鉄砲から放たれた鉛玉だった。


政宗自ら刀を握り、戦場を駆けるのは珍しいことではない。今日もいつものように竜はその爪で戦場を切り裂いていった。
しかし、運が悪かったのか、政宗に流れ弾が当たってしまったのである。
最初すぐ後ろについてきていた小十郎は遠方からの政宗への狙撃かと身を強張らせた。すぐさま被弾した主を、無礼とはわかっていながらもその鍛えられた肉体で地面へと伏せさせる。しかし次いでの銃撃がないということで、ひとまず落ち着けるところへ移動し、今体内に残る弾丸を取り除く処置をしているところであった。
本陣に戻ってから手当をしたほうがいいというのはわかっていたが、思っていたよりも自分たちが本陣から離れていたことと、空の雲の動きが怪しく、空気も湿って来ていた為に今から移動していては雨に打たれるということ、幸い、背が高く葉も多くつけている木々が生い茂る林が近くにあったということで、小十郎は緊張で少し汗ばむ手のひらで、鉛玉を摘出するために小刀を握ったのだ。
致し方が無いとはいえ、主に刃を向けるのはこれが二度目であった。前回の古い記憶が小十郎の脳裏によみがえり、刃を立てる決意を鈍らせる。

「・・・Hey、余計なこと考えてんなよ」

何も動きのない右目にしびれを切らし、撃たれた左肩を露にして政宗は行為を促した。
そして冒頭に至るわけである。
鉛玉が摘出されたと同時に、開かれた傷口から出血が激しくなる。すぐさま普段は政宗の胸部を圧迫しているさらしと、裂いた衣服で堅く止血をし、冷えぬようにと自らの陣羽織を羽織らせた。雨が降り始めたら気温も下がるだろう。すぐさま本陣へ戻りたいところだが、この周囲はどの程度まで敵が入り込んでいるかわからず、身動きが取れない。小十郎一人ならともかく、今の政宗は刀を持つこともできない。

「死ぬ時は死ぬし死なない時は死なねぇよ。こういうときこそCOOLに行こうぜ」

そういう政宗の顔色は青い。寒気を感じているのか、小十郎の見えないところで身体を暖めようとさすっている。
これからどう行動すればと焦る小十郎を落ち着かせようとしている主の気遣いに申し訳なさを感じると共に、改めて大切にされていると実感した小十郎は、その嬉しさを抑えることが出来なかったことと、少しでも寒さが和らげばとその細い身体を抱きしめた。

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あきゅろす。
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