Short Story
1
徳川本陣へと少数精鋭で切り込んだ幸村は、見事に黄金の装束を血に染めることが出来た。片膝を突き、なんとかこの場を凌ごうともがく家康に、止めをと槍を振り上げた瞬間である。甲高い金属音と共に、敵へと吸い込まれるはずの刃は阻まれた。勝利を確信していた瞳には、血で汚れた黄金ではなく、目に焼き付くような蒼が視界いっぱいに広がっていた。
考えずとも誰かわかる。その色を纏う人間を、幸村は一人しか知らない。政宗だ。
驚きで身体の動きを硬くしている隙に、刃はそのまま弾かれ政宗が数歩後ろへ下がり家康との距離を縮めた。一つだけの瞳が、一瞬だけ家康に向けられる。だが、視線をそらされたからと言って手を出せるわけでもない。柔軟で、しかし堅固な構えは意識は幸村のほうへ集中しているということを窺わせる。