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Short Story
2
それは幸村だって知らないことだ。そのことが、佐助にわずかな優越感を感じさせる。同じ女を好きになったことに気付くのは、そんなに遅いことではなかった。おそらく幸村も、佐助が政宗に恋慕していることを感じているだろう。

「・・・・できたぁっ!!」

政宗が来てさっさと終わらせようと躍起になったのか、彼女が現れる前は半分も埋まっていなかったプリントの回答欄は、この数分で残り全てに記入がしてある。恋の力とはなんと偉大なことだろう。隣のクラスの前田あたりが見たらテンション急上昇ものだ。

「職員室へ行ってくる!ま、政宗殿・・・よよよよかったら今日は某らと共に帰りませぬか!?」
「Ahー、OKOK。さっさと出してこいよ」
「承知いたしましたああああ!!!」

そのまま勢い良く飛び出していった幸村に、あわれ教室の扉が少し傾いて開いている。ああ、あれ直すの誰なんだろうとか考えている佐助だったが、すぐに魅惑的な脚線美を惜しげもなく晒している美少女に視線を戻した。

「元気なやつだよな」

優しげに微笑むその瞳は、佐助のほうではなく幸村が走り去っていったほうへと向いている。
佐助は、彼女についてもう一つ、コンプレックスのほかに秘密を知っている。
伊達政宗は、真田幸村が好きだということ。
それは、佐助がいつもいつも政宗のことを見ていたから気がついたことだ。
政宗は強い。弱い部分を他人には見せず、いつも自信に溢れて誰もが憧れるそんな存在。だがそれは佐助からしてみれば強がりにしか見えず、そんな虚勢を張っている彼女をいつしか護ってやりたいと思うのに時間はかからなかった。
そんな彼女が、さらに自らを強く見せようとする相手が幸村だった。

「やべ、今のうちに化粧なおすか」
「いやいや。十分綺麗でしょうが」
「好きな相手の前では常にBestの状態でいたいんだよ!」

そして、政宗は佐助の気持ちを知ってか知らずか、二人きりのときは幸村が好きだという空気を抑えない。
腹を割って話してくれるのは嬉しい。幸村も知らない政宗の表情だって、たくさん知っている。だが、佐助が一番欲しい表情を彼女が与えることはない。

「だって、俺こんな目してるから、ほかを綺麗にしないとあいつ、振り向いてくれないだろ・・・」

その綺麗でさらさらな鳶色の髪も、真っ白でニキビもシミも何もない肌も、おっきくて形のいい胸も、くびれた腰も、たまらないラインの脚も、全部全部幸村のために磨いたものだ。清楚な女の子が好きそうな幸村のために、化粧だって本当はもっとばっちりしたいけど、マスカラで睫毛を長くして、眉毛を少し書きたすだけ。もっとも、すっぴんでも素材がいいので十分勝負できると佐助は思うが、そのあたりは複雑な女心が妥協を許さないらしい。
何度も何度も鏡の中の自分を客観的にチェックして、ようやく合格が出たのか、よし!と一声発した間もなく、幸村が教室に帰ってきた。

「お待たせいたしました、政宗殿ー!!」
「遅ぇよ!早く帰るぞ!!」

スクールバックを肩にかけて、政宗がすぐさま幸村のところまで近寄る。さっきまでシリアスなことを話していた佐助のことなど、忘れてしまったかのように。

「ちょっと〜。俺様のこと置いていかないでよね!」

からかうように駆け寄って、自然に二人の間に割り込む。そんなことをしても、二人とも嫌な顔をしない間はまだ大丈夫だと、佐助は安心できた。
知っていた?君たち好きあってるんだよ。片思いの両思いだね。
そう告げてしまえば、この三人の微妙な関係は簡単に崩れる。いつまでも決着のつきそうにない間柄に、しびれを切らしてそう言ってしまおうかと思ったことも幾度か。だが、その度に佐助は自らに言い聞かせるのだ。

自分にしか見せない表情があるということは、それだけ自分に心を許しているということ。その思いが、恋に変わる日だって来るかもしれない。

この恋はトライアングルの中。行き先不明で捕われて、脱出は不可能。

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あきゅろす。
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