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大学生パロ
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セキュリティが万全の高級マンションに足を踏み入れるなんて、ごくごく一般市民の俺にとっては初めての事だった。
今俺が住んでいる部屋も普通のアパートの普通の1LDKで、まあ、貧乏大学生にしてはちょっと良い部屋に住んでるかなってくらい。それも親の仕送りと、空いた時間をとりあえずバイトに費やしているからできるものだ。
しかし、さすがに此処まで来ると、俺様もびっくりせざるをえない。いや、自分の店持ってるって時点でかなりびっくりだけど・・・。
とにもかくにも、伊達政宗の自宅は、とてもじゃないが大学生が一人で住む様な場所ではなかったのだ。
オートロックのマンションの入り口を抜けて綺麗に掃除されたロビーへ。エレベーターは静かに動くし廊下の照明も明るい。12階建てマンションの8階最奥角部屋3LDKの彼の自宅玄関は、とてもすっきりと片付いていた。

「今何か拭くもの持ってくる。ちょっと待ってろ」

さすがに濡れ鼠となった俺様をそのまま家に入れようとするほどバカではないらしい。少し肌寒いけど仕方が無い。程なくして伊達政宗は大きめのタオルとバスマットを持って来た。床をとことん濡らしたくないのか・・・と思ったが自分から床に落ちる雫を気にする様子も無く、濡れたスプリングコートは脱いで脱衣所らしき場所に放り投げていた。その場で濡れた靴下も乱暴に取って同じように放る。露出した素足は白く、磨かれたフローリングの廊下を歩くたびに荒れを知らないかかとが見えた。

(なんか、ちょっとイケナイ気分・・・)

元親や幸村に内緒でここにいるというのがそうさせるのか、彼から発せられる何とも言えないオーラというか、色気というか、そんなものがそうさせるのか・・・頭の水気を拭き取るのも忘れ、ほんのり熱を持った頬をタオルで隠してぺたぺたと廊下を移動する彼をぼんやり眺めていると、視線に気がついたのか伊達政宗はこちらを振り向く。人にはタオルを渡しておいて、自身は未だに濡れたその身体を拭き取ってはおらず、水気を帯びて鴉のように黒く艶めく髪は、振り向いた遠心力で雫を滴らせた。

「Hey、拭き終わったらタオルそこに置いて傘持って帰れよ。返さなくてもいいから」

そして、発せられた温度の無い言葉は、雨で冷えきった俺の身体をさらに冷たくした。なんか、意外と、この男は嫌なやつかもしれない。
モダンなデザインの細くて黒い傘立てには青いブランドものっぽい傘と安っぽいビニール傘の2本が刺さっていた。もちろん、ビニール傘を手に取るが、少し腑に落ちない。
高級マンションに暮らし、質の良さそうなスプリングコートをまとい、片付いた玄関。のわりに、本人はいたって大雑把。ブランドやら何やらを好むのならば、もう少し丁寧に扱わないだろうか?

(・・・彼女とかいんのかな。ブランドとか好きそうなイメージじゃないし)

それとも幼い頃から高価なものにかこまれた生活をしていて、そんなに気にしていないのだろうか。それはそれで住む世界が違うのだと言われている気がしてなんだか寂しい。
・・・・って、なんで寂しいのさ。ただの同じ学校の人ってだけじゃんか。そう思いながら手にしていた湿ったタオルを置き、まるで夢か幻のようなひとときから脱却しようと玄関の扉を開けた。
・・・・雨脚はさっきよりも強くなっていた。大粒の雨が無数に空から落下してくるその光景を、ややうんざりしながら俺は眺める。果たして、安物のビニール傘までどこまでしのぎきれるか・・・・右手に握られた頼りない細身は、とてもじゃないがこの大雨を無事に乗り切る為には役不足な気がする。
しかし、ここでこのまま突っ立っていても仕方が無いとエレベーターに歩き出したそのとき、暗闇が一瞬閃光に染まった。次いで腹の底に響く様な轟音。最悪だ。雷も鳴っているなんて・・・・。
近くのコンビニで雨がやむまで立ち読みでもしようか。いや、でもそうしたら終電が・・・・と、上昇してくるエレベーターを待ちながら考えていた。でも俺、このへんどこにコンビニがあるか知らないな・・・伊達政宗に聞いてこようかな、と振り向いた瞬間その伊達政宗が、いた。

「Ahー・・・・嫌じゃなかったら、その、泊まってくか?さすがにこんな天気じゃ危ないだろ」

どこか気恥ずかしそうに、視線を横にずらしながら彼は提案してきた。
・・・・ごめん。さっき、嫌なやつって思ったの、撤回するよ。だって彼の髪の毛はまだ濡れたままで、急いで履いて来たのかスニーカーはかかとが踏まれてあって、雨音と雷鳴を聞いて心配して来てくれたんだなって、すぐにわかったから。

「・・・伊達がいいって言うなら」

こうして、みじめなビニール傘は再びモダンな傘立てにブランド品の青い傘と一緒に収まることになった。
改めて彼の部屋に入って思ったのは、ちょっといい加減な感じの性格のわりに部屋は結構綺麗だったということ。ちらっと見た台所は、さすがお店をやっているだけあって、棚の中には見たことの無い調味料や器具が並んでいた。

「客間はそっちだ。ベットは好きなほうを使ってもいいが、多分手前のやつのほうがいいと思うぜ。奥のやつは最近使ってないから埃っぽいかもしれねぇ」
「・・・客間にベット二つあんの?」
「知り合いがよくうちに来るんだ。そいつら用」

客間もちら見程度に済ませ、ダイニングに向かえばなんか飲むか?と家主は訪ねて来た。
落ち着いた色合いで統一されたそこには、無駄なものは一切無かったが、生活感はちゃんと感じることが出来た。クッションが二つ置かれた三人くらいなら座れそうなソファに腰掛けながら答える。

「伊達は何飲むの?一緒でいいよ」

なんだか微妙な顔をされた。
そんなに特殊なものを飲むのだろうか?それとも適当そうに聞こえる返答に見えたのだろうか。手間をかけさせたくないから一緒でいいって言ったのに。
勘違いしないでね、と言おうとしたら湯気を出すマグカップが差し出された。紅茶色の液体からはいいにおいがする。よく見るとお互いのマグカップは色違いのお揃いで、彼女いる説にさらに拍車をかけた。
どこかぎこちない動作で彼は俺の横に腰掛ける。

「あの、さ・・・」
「ん?」

少し言いよどんだ感じの彼に、珍しさを覚えながらも次の言葉を待つ。
傍らのクッションに肘をついて、上を見たり下を見たり、なんと言葉を表現しようか随分と悩んでいるようだったが、数秒ごにょごにょと口を動かした後はっきり言った。

「その・・・・伊達って呼ぶの、やめてくれよ」
「・・・・・・・・・・・・・・は?」
「いや、な・・・あんまり、名字で呼ばれるの慣れてないんだ。くすぐったいって言うか」

また、白い頬が色づいている。赤面症気味なのかな。でもなんか可愛いなぁと、男には不名誉かもしれない感想を抱く。でも、本当に可愛いのだから仕方が無い。俺のとはデザイン違いの青のマグカップの中身を、照れ隠しで飲むその様は、学校でちょっとぴりぴりしている彼とは同一人物とは思えない。
これってなんて言うんだっけ・・・ギャップ萌え?
きっとさっき変な顔をしたのも、名字で呼ばれたのがむずむずしたからなのだろう。そう思ったら、なんて弁明すれば良いのかと少し悩んでいた俺は一気に気が楽になる。

「政宗って呼べば良い?」
「・・・・ああ。そっちのほうがしっくりくる」

砂糖が入っていない紅茶は何故かとても甘く感じた。
その日俺は政宗ととりとめの無い会話でとても盛り上がった。しかし、やはり学校で何故寝てばかりいるのか。若くして学生でありながら店を持っている理由。・・・・彼女がいるのかどうなのか、は聞くことが出来なかった。
きっとそんなことを聞いたら、またこうしてご飯を食べてお茶をしてなんて、政宗は許してくれないと思ったから。

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