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大学生パロ
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伊達政宗はどんな人間かと聞かれると、「いつも寝ている人」としか答えれない。
教壇から遠ざかるほどに人口密度が上がる学生の群れから、ぽつんと一人抜け出ている青年。窓側最前列が彼の特等席だった。
大学の授業なんて出席さえしていればあとは何をしようと勝手だ。点呼を取った後、すぐさま腕で作った壁に頭を埋めてしまう彼と交流を持っている人間など、学内には無に等しいだろう。しかし、勉強を教えてくれる友人を持っているようにも授業を真面目に聞いている様子でもないのに、張り出される上位成績優秀者の中にちゃっかり入っているので、密かに彼は奥州大学七不思議の一つに数えられてしまった。(ちなみにこの七不思議は七不思議研究会というサークルが一年に一度選定するらしい)
そんなことを知っているのかどうなのか、チャイムの音とともに教室を出てどこかへ行ってしまう姿がさらに謎を呼んでいる。いわく、食事をしている姿も目撃されたことが無いらしい。
でも、俺は知っている。食事をしている姿を見た人がいないのは、彼が大学にいる時は食事をしていないからだ。
いつも伊達政宗は昼休みの時間は屋上で昼寝している。雨の日は3つある資料室のどこかで、やっぱり寝ている。

そんなに寝てばかりで、夜何をしているのか。

人々の思考がそこに行き着くのは自然なことだろう。
彼から放たれるオーラにあてられ、ある意味崇拝している人間達は家で勉強しているに違いないと熱弁し、適当に学校に来て適当に卒業していくような連中はバイトでもしてんじゃね?と妥当な答えを出し、その連中の中でちょっとガラの悪い奴らは、お水の仕事でもしてるんだろと、決して品がいいとは言えない笑いを発して言う。
親交があるわけではないが、学校で寝て家で勉強するなんて効率の悪いことをしそうな人間ではないと思う。さらに言うなら水商売をしている雰囲気でもなさげだった。時々酒の匂いをまとわせているときはあったが、香水の匂いはしたことがないからだ。
そんな謎を周囲の人間に抱かせたまま、一年が過ぎたころ。
俺は工学科の長宗我部元親と幼なじみの真田幸村と一緒に飲みに出掛けた。高校のときから仲が良いこの3人で出掛けるのは本当に久しぶりだった。真田の旦那が体育系の大学へ行ってしまったからだ。元親は科が違うとは言え同じ大学。会おうと思えばいつでも会えるが旦那はそうはいかない。会えるときに会って、できるだけ楽しむ。
その真田の旦那の家の近くに、評判の居酒屋があるとかで、俺と元親はいつも降りる駅を7つ通り過ぎた場所までやってきた。駅の出入り口には懐かしい顔が笑って迎えてくれる。
話はその居酒屋に行ってからとことんしようと、早速その店へ足を運ぶ。「青葉」と書かれたのれんをくぐると、まだ出来てからあまり間が経っていないと分かる。聞けば、旦那が越して来た直後・・・つまり去年の春に開店した店らしい。
テーブル席が3つ。カウンター席が5つだけのこじんまりとした店だった。
店員は一人だけだった。いらっしゃい、と声をかけて来た男に、俺と元親はあぜんとする。

「・・・あれ。お前ら、確か」

そこに立っていたのは、まぎれもなく奥州大学七不思議のひとつ、伊達政宗その人であった。

「猿飛佐助だっけか。そっちの派手な兄ちゃんも見たことあんな」
「・・・・俺のこと知ってんだ?」
「同じ科なんだから知ってて当たり前だろ」

座れよ、と声をかけてくる話題性たっぷりの青年は近寄りがたい雰囲気とは裏腹に意外とフレンドリーに話しかけてくる。
勧められるがままにカウンター席に腰掛ける。真田の旦那が「知り合いか?」と目で訴えてきた。とりあえず名前だけ教えて間柄はなんと説明して良いかわからなかったので微妙な表情を浮かべれば、理解したのかしてないのか、困ったように笑う。元親は口を開けたまま呆然としていた。
肩までは届かない髪を後ろに無理矢理まとめている伊達政宗は、学校で見る時とは違い眠そうなわけでも不機嫌そうなわけでもない。「注文は?」なんて聞いてくるその姿は、どこからどうみてもあの『伊達政宗』とは同一人物には見えない。

「ええっと・・・・バイトかなんか?」

周囲を見渡しても、狭い店内に他の従業員は見当たらない。カウンター越しの厨房の奥には、何やら事務所っぽい雰囲気のエリア。しかしそこに人の気配はなく、間違いなく、今店員と呼べる人間はこの隻眼の青年のみだ。

「いや。ここ俺の店だから」
「・・・・・・はぁ!?」

声を上げたのは元親だった。ようやく学校の伊達政宗と目の前の青年が=で繋がったのか、思考が現実に戻って来たらしい。しかしその青年の発言にまた意識が飛んでしまいそうになっている。どうやったら、現役大学生が自分の店を持てるというのか。ある意味元親の反応は正しいのかもしれない。

「・・・他のお店の人は?」

いくらなんでも現役の大学生が、最近評判の居酒屋を一人で切り盛りするには無理があるだろう。そう思って聞いた質問だった。

「忙しい時期には臨時のバイト雇ったりもする。が、平日は俺一人だ。週末になると知り合いが2人くらい手伝いにくるけどな」

しかしその質問の返答はやはり驚愕の無いようだった。
何も頼まないなら帰れ!と詮索ばかりで金を落としていかない客にしびれを切らしたのか、いら立ちを隠さなくなってきた伊達政宗にビビった真田の旦那が、とりあえず生中3つとつまみを適当に頼んだ。
出て来たつまみ(ちょちょいと作ったような代物ではなく、普通の料理といってもいいくらい凝っていた)は和風テイストで、大食いな上に育ちが微妙に良い所為で結構味にはうるさい真田の旦那が箸を止めないくらいに、美味かった。見た目も綺麗に盛りつけしてあって、居酒屋というよりは割烹とか料亭とか、そんな雰囲気を漂わせる。でもちらりと覗いたおしながきに記された値段は、思っていたよりは安値だった。
うまいっ!と、元親が叫ぶように感想を述べると、少し鋭い印象を与える隻眼が嬉しそうに笑う。
・・・・そんな顔もするんだ。

「いやー。人はみかけによらないねぇ」

あ、鳥の唐揚げ追加ね。はいはい、ちょっと待ってろよ。なんて、まともに話をしたのが今日が初めてとは思えないほどに、会話が弾む。俺たち以外には客はいない所為もあって、気兼ねなく話をすることが出来た。
いい感じに酒もまわって、一番酔いやすい真田の旦那の目つきがちょっと怪しくなって来た頃、携帯の時計を見ると日付がそろそろ変わるという時間だった。
無尽蔵の胃袋を持つ旦那と元親のもっと食べる&飲むというブーイングをスルーして、お勘定を済ます。わざわざ店の出口まで見送りに来た伊達政宗は、やはり学校でみるときとは大分雰囲気が違った。

「また来いよ。今日は楽しかった」
「あはは・・・それはこっちのセリフ。今日はありがとう。すっごく美味しかった」

じゃあ、と立ち去る3人の珍客を若き店主は姿が見えなくなるまで見送った。
自然と学校の話題は出なかった。
・・・・聞いてはいけない様な、そんな気がしたから。

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