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アイザキガカリ 番外編
2
 相崎はメールの通り午後から学校に来た。
 放課後は相崎に誘われて、繁華街にある大きな書店に行くことになり、俺の自転車の後ろに乗っていけばいいと相崎に言ってみたが、すげなく断られた。
 交通違反だからとは言っていたが、たぶんきっと相崎は他人の運転に乗るのも苦手なんだと思う。
 そんなわけで、俺の自転車は学校に置いておくことにして、学校の前からバスに乗った。
 ちょうど下校時だったせいかバスは少し混んでいて、何を話すでもなく並んで立っていると、前に座った女子高生二人がちらちらとこちらを伺っているのに気づいた。
 こちらをというよりも、正確には相崎をだ。
 噂が本当だったことを目の当たりにして、ちょっと感動してしまう。
 相崎の方を伺うと、そんな視線には慣れているのか与り知らぬと言った感じで窓の外を眺めている。
 しかし、観察する俺の視線に気づいたのか俺の方に問いかけるように視線をむける。
「あ、ごめん、なんでもない」
「なんだよ」
 そういうと相崎は少し笑い、とたんに前の女の子たちが色めき立つのが気配でわかる。
 ちらっと彼女たちの方を伺うと、案の定二人はどことなく嬉しそうに笑顔で目配せしあっており、相崎はやっぱりすごいなあと思う。
 同時にこんな奴を俺なんかが独占していいのだろうかという考えが頭を掠めるが、これはなるべく考えないようにしている。
 こればっかりは、考えてもしかたのないことだ。



 バスを降りて本屋へ向かって歩きはじめてまもなく、後ろから声をかけられた。
「あのー、すみません」
 振り返ると女の子が二人立っていた。さっきバスに乗っていた子たちだ。
 二人の視線は見事なまでに俺からはずれており、彼女たちの目的はやはり相崎なのだとすぐにわかる。
「何?」
 相崎が応えると彼女たちは俺たちの高校の近所の女子高に通っていると言った。
 そういえばよく見かける制服だ。
「あのー、突然申し訳ないんですけど、一緒に写メとってもらってもいいですか?」
 そう言って携帯片手に上目遣いに聞いてくる仕種はとても可愛い。
 それにしても、こういうことってあるんだなあとびっくりする。知らない女の子から突然こんなことを頼まれるなんて。
 俺が感心しつつも驚いていると、相崎が言った。
「悪いけど、事務所にそういうのは禁止されてるから」
 事務所?
 寝耳に水だ。事務所ってなんの事務所だろう。まさか芸能事務所?
「えー!やっぱりデビューとかするんですかぁ?」
「事務所ってどこですか?」
 相崎は口々に言う女の子たちを核心を外しながらも思いのほか優しい口調でいなし、最後には時間がないからときっぱりと話を打ち切った。
 そして、名残惜しそうな女の子たちに踵を返すとさっさと歩きだして、俺も慌ててその後に続く。
 相崎に追いついて肩を並べてから、なんとなく後ろを振り返ると、女の子たちはまだそこにいて俺に向かって手を振ってくれた。
 手を振り返すのも気恥ずかしくて、微妙にかろうじて会釈と言える程度に頭を下げてからすぐに相崎に視線を戻す。
「相崎、事務所なんて入ってるの?どうして?」
「入ってるわけねえだろ。ああ言っておけば、いろんな面倒がかわせるからな。お前も覚えとけよ」
 一応頷いておいたが、残念ながら俺にとっては使いどころのない無駄な知恵だ。
 もう一度振り返ると、女の子たちはまだこちらを見ていて、また手を振られる前にと慌てて前を向く。
「すごいなあ。ほんとに相崎ってもてるんだな」
「すごくない。もててもない。ああいうのは俺自身がどうこうじゃなくて、女同士で騒いで楽しみたいだけだろ。本気の奴は一人で来るからな」
「え…」
 相崎が最後に何気なく言った言葉に動揺した。
 さっきみたいな子達は本当に楽しそうで明るくて、見ている方もなんだかつい笑ってしまうようなほほえましい感じで、言われてみれば好意より興味が先にたっているような印象を受ける。
 だけど、中には本気の子もいるんだ。
 そしてその子は一人で相崎に会いに来たことがあるんだ。
 いったいどんな子だったんだろう。相崎はそれにどう応えたのか。
 
 俺と同じ気持ちを相崎に対して抱いている女の子がいる。
 
 その事実に、たとえようのない焦燥感が湧き上がった。初めての感覚だ。
 苛立ちと似ているようなちょっと違うような、強いていうなら「なんとなくつまらない」というのが一番近い気がする。
「そ、そうなんだ」
 動揺を必死で隠して応えると相崎はこともなげに言った。
「そうなんだって…お前もそうだっただろ」
「……」
 お前『も』。
 その言い方が妙にひっかかる。『も』ということはやはり俺以外の他にも告白されたことがあるということだ。
 そんなことは当然だと思っていたし、別に相崎が悪いわけでも誰が悪いわけでもない。
 だけど、このモヤモヤとした感じはなんなんだろう。嫌な感覚だ。
 
 その正体が何なのかわからないまま何となくやりすごし、それが「嫉妬」だと気づいたのはかなりの長居をした本屋を後にしてから、だいぶ経ってのころだった。

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