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7
 快速の到着を告げるアナウンスが流れるまで、俺は固まっていた。
 抑揚の無いアナウンスの声に我に返り、次の瞬間、一気に顔が熱くなった。動揺のあまりか心臓のあたりが細かく震える感じがする。
 俺が好き?
 友達として、なんてこの流れではまずありえない前提だ。さすがにそこまで野暮ではない。
 だけどあの水落が俺を?そんな馬鹿な。
 いったい俺はどんな顔をしているのか、水落が俺をみて照れたように小さく笑った。
 その秀麗な顔が少し赤くなってる。恥らう水落。はじめてみた。成田が見たら、笑うか驚くかからかうか。どうするだろう。
 逃避なのか他の事を考えそうになって、あわてて意識を戻す。
「あっあの、それ、ほんと?」
「悪いけど、本当」
 悪いけど、なんて、こちらが言うことだ。
 だって、どんなに綺麗な顔をしていて、どんなにまっすぐな人間でも、俺は女の子が好きなわけで水落の気持ちには応えられそうに無い。
 そう思うのに、心臓がバクバクと鳴り出して、うまく答えることはできそうにもなかった。
「ごめんな」
 謝る水落に、首を横に振る。
 しばらく沈黙が降りて、それに耐え切れずに俺は口を開いた。
「…あ、あの、ほんとに?」
 俺にはどうしても信じきれず、だけど水落がこの手の冗談を言うともとても思えなかった。
「しつこいな。何度でも言ってやるよ。お前が好きだ」
 きっぱりと言われて、やっと本気だと認識する。それでも動揺はあとからあとから湧き上がり、まるでなにかにせっつかれたかのように俺は口早に言った
「あ、あの、俺なんて、気弱いし頭も悪いし顔さえないし、あの、正直どこがいいのか、さっぱりわかんないんだけど…」
「顔とか別に関係ない。だいたいそんなの鏡見れば間に合うし」
 ものすごい自信だ。たぶん冗談なんだろうが、それはそうでしょうともと思ってしまうところがすばらしい。
 水落はそこで言葉を切ると、声のトーンを落としてめずらしく歯切れ悪く呟くように言った。
「まあ、どこが好きって言われたら全部としか答えようがないんだけど。お前はたしかにとろくてどんくさいけど……なんか、ほうっておけないっていうか目が離せねえっていうか…。…っていうか、お前、すっげえ可愛いよ」
 俺はその水落の言葉に衝撃を受けた。
 可愛いなんて、初めて言われた。こういうのもなんだが、惚れた欲目というのはものすごい威力だ。この俺が可愛く見えるなんて。
 思わず顔に手を当てると、それがおかしかったのか水落が笑った。その笑顔がまた良くて輝いてみえて、本当になんでこんな男が俺のことをという疑念は深まるばかりだ。
「返事は?」
「…え、あ、そ、そうなんだ」
「そうじゃなくて」
 困ったように水落はため息を吐いた。そうじゃないと言われた意味がわからなくて考えていると、水落が焦れたように言った。
「なあ、つきあおうぜ」
「えっ」
「周りの奴らには絶対ばれないようにするし、お前の嫌がることはぜったいしないし、お前にほかに好きなやつができたらその時は考えてやるし。それともお前、好きな奴とかいるの?」
 正直に首を横に振ると水落は安心したように笑った。そんな風に笑いかけられると、心臓が止まりそうになる。
 その時、向かいのホームに快速が到着した。
 しばらくすると快速から降りてきた人たちが乗ってきたが、俺たちの周りには向かいの席の端にサラリーマンぽい人が座っただけだった。
 その人に聞こえないように、俺は声を潜めて水落に言った。
「あの、…でもさ…、付き合うって何するの」
「今日みたいに放課後どっかいったり、一緒に登校したり?後は…まあ、いろいろ」
 その最後の「いろいろ」がものすごく気になったが、あえてそこは流すことにした。
「…そ、そんなの、いまでも変わらないような」
「違うんだよ。ぜんぜん違う。…っていうか、今と同じだっていうならつきあうことにしたっていいだろ?お前にとっては今と変わらないんだからさ」
 断ったらこの先、水落と気まずいんじゃないかという保身から、修学旅行の自由行動をどうすればという小さなことまでが頭の中を駆け巡った。
 水落の「俺にとっては何も変わらない」という言葉に内心納得したからかもしれないし、それとも俺なんかをこれほどまでに好きだと言ってくれる人間は男女含めてこれが最初で最後かもしれないと思ったからかもしれないけど。
 俺が降りるころには、つきあうことで話がまとまっていた。
 とはいえ、はっきり頷いた覚えはないので、なし崩しといった感じだろうか。
 
 俺の降りる駅に着き電車を降りてから、ふと気が向いて振り返ると、座っていたはずの水落が席を立ってドアの向こうから俺を見ていた。
 視線があうと水落は少し驚いたように目を見開いた後、笑って手を振ってきた。慌てて俺も振りかえす。
 結局そのまま水落が見えなくなるまで見送ることになり、彼を乗せた電車が去った後、気が抜けて駅のベンチに俺はへたりこむように座った。
 
 手を振る水落を見た途端に早くなった鼓動は、なぜかさっきまでとは違う種類のもののように感じられた。

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あきゅろす。
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