アイザキガカリ
4
「相崎んち、すごかっただろ」
翌日、裕介が話しかけて来たとき、俺は大いに同意した。
「うん。すごいマンションだった!警備員とかいてびびった」
「え?あいつんち一軒家じゃなかった?」
「や、マンションだったけど…」
「ふーん。引越したのかな。俺が行ったとこ、すごかったよ。塀がすごく長くて。美少年にふさわしい豪邸って感じだった」
「びしょーねん?」
「ああ、相崎のこと。女顔なんだよ。睫とかばっさばさで色が白くてさ、んで、小さくてほせーの。中1のときのおれくらい小さかった」
裕介は順当に背を伸ばして今でこそ平均よりは高いくらいだが、中学のころは背が低かった。そういう俺は決して高いほうではない。低いほうでもないが。
「何はともあれ緊張したよ。もう行きたくない。不審すぎて警備員に顔覚えられた気がするし」
ため息まじりにいうと、裕介はならちょうどいいじゃんと暢気に言った。
しかし、相崎の外見を聞いて、なんだか親近感というほどのものではないが、ぼやけていたものが実体化したような気がする。
いつか噂の美少年に会えるときはくるのだろうか。
相崎宅再訪問の機会はそれからまもなくやってきた。
最初の訪問から1週間ほど経ったころ、帰り際に例によって担任にプリントを押し付けられ再度行ってくるようにといわれた。
これにはさすがに抗議せずにはいられなかった。このままいいように使われてしまってはたまったものじゃない。
「先生って俺のこと相当暇な奴だと思ってますよね…」」
抗議といってもせいぜいこの程度だ。現に俺は「相当暇な奴」なのだから。
なにせ委員もやっていないし部活も同好会もやっていない。習い事をしているわけでもない。ちなみに裕介は「趣味は読書」がきいたのか図書委員に任命され、週2程度のお勤めを果たすこととなった。
「そういうわけじゃないんだがなあ」
じゃあどういうわけだ、と俺に言えるはずもない。
「人の役に立つっていうのもいいもんだぞ、市川。これはいわゆるボランティアだ」
「まあ…いいですけど」
結局引き受けてしまう。俺はこの間よりは薄い紙の束を担任から受け取った。
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