アイザキガカリ
3
遠回りして到着した相崎の家はなかなかすごかった。
いわゆる高層マンションって奴だ。
俺は自転車をどこにとめたらいいのか迷ってマンションの周りを2周ほどしてから、仕方なく通りをはさんだ向かいにあるコンビニの前へとめた。
そのままマンションへ突撃するのもためらわれ、俺はとりあえずコンビニに入った。
どのみち自転車をとめさせてもらっている手前、何か買わなければと思っていたしちょうどいい。雑誌コーナーを冷やかしてから何を買おうか店内を物色する。
ガムか飴でもと思ったが、緊張のせいかうららかな陽気のせいかはさだかではないが喉が乾いていたので、お茶を買うことにした。 俺は貧乏性なのか、おまけがついているとついついそれを選んでしまう。そのおまけがまったくいらないものでもだ。
この時も例にもれず、小さなビニールの袋がついていたお茶を手にとる。
レジで清算をすませ店の前で一口お茶を飲むことにした。
おまけを開けると、ずいぶんかわいい熊のキャラクターの紙をとめるクリップが入っていた。熊はかわいいが、かわいすぎてちょっとこれは俺には使えない。母親にでもあげようと俺はクリップをポケットに入れた。
お茶を半分ほど飲んだところで、俺はいよいよ意を決してマンションに突撃した。
自動ドアをくぐってすぐのところに警備員らしき人が立っていて、わけもなく緊張する。
なんとなくその人に会釈をして、さらに奥にもうひとつあった自動ドアの前に立つ。しかしそれはまったく開こうとはしなかった。
何回か足踏みをすると、さっきの警備員の人がやってきた。
「どうなさいました?」
「え、えっと、あの、同じクラスの…人に会いにきたんですが」
友達といいそうになったが顔も何も知らない奴をそういうのもおかしいと思い、つい口ごもってしまう。不審な奴だと思われないだろうかとひやりとしたが、その警備員は気にする風でもなく右側にあるインターフォンで部屋番号を押して呼び出してくださいと教えてくれた。
担任にもらった住所の部屋番号を押してから鈴の描いてあるボタンを鳴らす。
―― 僕は相崎君と今年同じクラスになった市川といいます。先生に言われてプリントを届けに来ました。
応答を待つ間、いうべき言葉を頭の中で繰り返す。
しかし、インターフォンはいつまでも無言のままだった。どうやらほんとうに裕介の言うとおりらしい。
さきほどの警備員さんに留守だったことを伝え、ポストの場所を聞くと、ポストの集まった小部屋に案内してくれた。
相崎の家の部屋番号を確認し、プリントを投げ込もうとしたとき、ふと思いついて先ほどのお茶についていたクリップでプリントを挟んで入れておいた。趣味に合わないクリップを有効活用できたとちょっといい気分になって俺はマンションをでた。
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