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アイザキガカリ
2
 始業式の後の自己紹介は簡潔にすませた。
 名前、前のクラス、帰宅部だということ。それだけですませようとすると、担任が趣味くらい言えというので、無趣味ですと答えるとちょっとクラスに笑いが沸いた。
 裕介の奴は、趣味は読書でミステリーが好きだと言うようなことを言って俺にとっては意外な一面をのぞかせた。
 中学の時は漫画雑誌の推理モノは読み飛ばしてたやつなのに。いつのまにかかけるようになった眼鏡は、ひょっとして読書のせいなのだろうか。
 そうこうするうちに自己紹介は一巡し、担任からの連絡事項のみで後は放課後だ。
 帰り支度をしつつ裕介を誘ってゲーセンでも行くかと思っていた時に、担任に声をかけられた。
「市川、今日は暇か?」
 出席番号が早いと委員やらが決まるまでの数日間、教師のパシリにつかわれる。パシリといってもプリント集めて職員室に持っていくだとか、テキストを運ぶとかそんな程度だが。
「暇といえば暇ですよ」
「さすが無趣味」
 まだ若い担任は意地悪くニヤリと笑ってそう言った。内心ムッとしたのが顔にでたのか担任は笑いつつも拝むように片手をあげた
「悪い悪い。それはそうと市川を男と見込んで頼みがあるんだが」
「なんですか?」
 俺が訊くと同時にドサリと紙の束が渡された。見ると、今日クラスで配られたものだった。
「今日休んだヤツにな、そいつを届けてほしいんだよ」
「今日休んだヤツ…っていうと…」
 真っ先に相崎が思い浮かんだ。
「相崎ってお前の前の席の奴。家もさ、結構近いみたいなんだよ。お前んちと」
 そして追加で住所と地図の書かれた紙が渡される。
 それを見るとウチから近いというには近いが、そこを経由して帰るにはけっこうな遠回りしなければならない場所だった。
「ついでに会えたらでいいんで様子も見てきてくれ」
 じゃあよろしくと無責任にも担任はひらひらと片手を挙げて行ってしまい、それをみはからっていたかのように裕介が来た。
「いっちゃん、高田たちが帰りマック寄ってこうって」
「あーごめん、俺、たったいま先生に用事頼まれちゃって。今日はやめとくわ」
「何?…あ、もしかしてそれ相崎に?いっちゃんが今年最初の相崎係かあ」
「え?何係?」
 訊きなれない言葉に思わず聞き返す。
「去年ね、相崎んちに近い奴らがいっつもプリントとか届けさせられてたんだよ。みんなでそのこと相崎係って呼んでたの。俺も一回だけやったことあるよ」
「へえ。なんかこういうのって小学生以来かも」
 そう答えながら、なんだかあまりいい気持ちはしなかった。裕介自身にではなく『相崎係』という言葉そのものにだ。
 俺はなぜかまだ見ぬ相崎にどこかしら純粋だったりひょっとしたら傷を負っていたり…とにかく繊細なイメージを抱いてしまっていた。「不登校」という言葉のせいかもしれない。
 とにかく、そんな奴に対して「相崎係」というのは、揶揄に近いものを感じたのだ。
「あいつんちってピンポン押してもぜったい誰もでないから、それポストに入れておけばいいよ」
「うん。高田たちにもよろしく言っておいて」
 そう裕介に別れをつげて、俺は自転車置き場へ向かった。

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