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アイザキガカリ
14
 昼休み、裕介はテスト前の最後の図書委員の集まりがあると言って弁当持参でいなくなってしまった。
 いなくなる前に俺と相崎が一緒に飯を食う段取りをしていってくれた。どうせ俺のことだから相崎を誘うべきかどうかで頭を悩ませていただろうから、ありがたいといえばありがたいことだ。
「相崎は弁当?購買いく?」
「来るとき買ってきた。外で食おうぜ」
 そう言われて相崎に連れられて屋上に来た。
 来る途中、いたるところで視線を感じた。やはり相崎は目だつのだろう。
 たいてい大所帯の生徒は教室で食べるため、屋上で食べる生徒はだいたい一人の奴か二人組だ。
 俺たちは屋上に備え付けられたベンチのひとつに腰を下ろした。
「やっぱり学校はなにかと面倒だな」
 座るなり息をついて相崎はそう言った。
「え、そう?」
 なんだか不登校の理由に触れた気がしてドキリとする。
「好きなときに好きなことをできない。しかもノートは手書きでなきゃならない。けっこうなストレスだ」
 相崎の部屋にあったパソコンが思い浮かんだ。
「好きなことってパソコン?」
「そりゃまたえらく大雑把なくくりだな」
 相崎は笑った。俺はなにかおかしなことをいったのだろうか。
「間違ってはいないけどな」
 そういいながらコンビニの袋からお握りを取り出す。
 そのお握りの入ってた袋は相崎のマンションの前にあるコンビニのものだった。あそこで買ったのだろうかと思って、ふとその袋が妙に大きいことに気がついた。中を覗くとお握りがあと3つ、焼きそばパンがひとつ、その奥にも惣菜パンらしきものが見える。
「ずいぶん食うね…」
「食うときにまとめて食っておかないと。すぐ忘れるから」
 忘れるって何を?と思うと、それにすぐに気づいたのか相崎が補足して言った。
「飯を食うのを忘れる」
「ええ!?」
 驚いた。食べたくないとか、ゲームに夢中になって食事をとるのが面倒だと思うことはごくまれにあるが、食べることそのものを忘れるというのは俺にはないことだ。しかも「すぐ」だなんて。
「ちゃんとさ、食わなきゃだめだよ」
「食ってるときは俺もそう思うんだけどな」
 言いながら相崎は海苔のついたしまったらしい親指を舐めた。赤い舌がのぞいて、すこし色っぽく感じた。
 そう感じてしまった自分が後ろめたくて、俺は慌てて彼から目をそらした。
 なんだか余計なことまで思い出しそうだ。
「週末は何をしていた?」
 不意に相崎が訊いてきた。思わずぎくっとしたのに気づかれなかっただろうか。
「…テスト勉強してたよ」
 その実は本当は相崎のことを考えてしまって悶々と過ごしていたのだが。しかしそんなことを本人を目の前にして言えるはずがない。
「人生については考えたか?」
 金曜に交わしたやりとりだと思いつつ、相崎の飄々とした様子に安心し笑って首を振る。
「じゃあ、俺のことは?」
 すかさず続けられて、俺は固まった。
 やばいと思ったその瞬間にも血は顔に集まり、動揺をさらけだすがのごとく勝手に視線はさまよう。
「かっ」
 考えてなんていないと見栄をはって言おうとしたが、それは相崎に悪いかもしれないと思い口をあわててつぐむ。
 だけどずっと考えてたと正直にも言えず、俺はうつむいた。
「考えてたみたいだな」
 楽しげな相崎の声。
 俺にはもう彼が何を考えているのかわからない。
 俺のことが好きなのだとはとても思えないし、からかっているとも言い切れない。
 ああもうどうすればいいのかといっそ逃げ出したくなった時、天の助けが来た。
「相崎、ちょっといいか」
 声のした方を向くとクラスで目立つ奴らが三人立っていた。

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