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アイザキガカリ
13
 月曜日は最悪な気分で迎えた。
 世間のメディアはなんと恋愛関連で満ち溢れていることか。
 漫画雑誌を読んでもゲームをしてもドラマをみても…CMでさえ恋愛の匂いがする。
 おかげでことあるごとに相崎を連想し、あの日の帰り道に考えたようなことをぐるぐると考えてしまい、一度など思い切って相崎のうちを直接訪ねて真意をきいてみようかとすら思いつめた。
 食事中は家族と話すことでようやく気が紛れるかと思ったが、不意に「和樹の友達のものすごくかっこいい相崎君」はまたウチに来ることがあるのかと母さんに訊かれ味噌汁を気管に詰まらせた。
 それにはあいまいに返事をしてかわしたものの、続く母さんの相崎がいかに礼儀の正しい良い子だったかというスピーチにとどめを刺された思いだった。
 テスト勉強も手につかず、どうせしばらく会わないのだから考えても無駄だと思い切っても、いつの間にかあのときのことを考えている始末だ。
 誰かに、たとえば裕介に相談することも考えたが、あまり他人に言うことでもないような気がした。
 
 そんな気分を引き摺ったまま教室のドアを開けると何か教室の空気が違うような気がした。
 みんな何かを気にしているかのような、そわそわと意識がどこか一点に集中している感じ。
 なんだろうと思いつつ自分の席に向かおうとして凍りついた。
 俺の前の席。いつも空席なはずのその席に。
 艶やかな黒髪に白い項。頬杖をついているらしく傾いた後姿―。

 相崎――。

 相崎の姿を認識したとたん、すべての体温が一気に集まったかと思うほど顔が熱くなった。すごい、目の奥まで熱い。
 やばいと思うと同時に肩をたたかれる。
「いっちゃん、おはよ!なあなあ、あれ――」
 裕介のいいところは声がよく通るところだ。心の準備もないまま裕介の声に相崎が振り返り、ばっちりと目が合う。
 どういう顔をしたらいいのかわからない俺に対して、相崎はわずかに口元を緩めた。
 反応できずにいると、裕介に肩をおされるようにして相崎の後ろの自分の席に向かう形になった。
 その間ずっと相崎は俺のことをみていて、とてもじゃないけど生きた心地がしない。
 なんで来たんだ。なんでいるんだ。裕介、押すな。
「おはよ…」
 振り絞った俺の声は裕介の屈託のない声に大方掻き消された。
「おはよー。相崎、俺のことって覚えてる?」
「多田だろ。覚えてるよ」
 そんな裕介と相崎の会話を聞きつつ自分の席に座る。
 自分以外の人間と相崎が話しているのが不思議な感じがした。
 しかし裕介はすでに用意した話題がなくなってしまったのか、助けを求めるように俺をみた。
 だけど俺だって何を話していいのかわからない。訊きたいことなら山ほどあるのだが。
 会話をつないだのは俺ではなく、相崎だった。
「前にうちに来てくれたのは多田だよな?」
「そう。マンションだったからちょっと驚いたよ。前、一軒家だったよねえ?」
 あっさりと訊く裕介に俺はびっくりした。
「親が海外に住むことになって、俺だけこっちに残るんで引っ越したんだよ」
「そうなんだ」
 裕介がそう答えた時にチャイムがなり、裕介は自分の席に戻り相崎は再び前を向く。
 なんとなくだが取り残された気分になった。
 相崎が自分には話しかけなかったからなのか、裕介がずっと自分が聞けなかったことをきいてその答えを得たからか、あるいはその両方のせいかわからなかったが、どうしてかいい気分がしなかった。
 その一方で相崎が一人暮らししているのが、まったく普通なごもっともな理由だったのに拍子抜けする。
 ホームルームでの担任の声はまったく頭に入ってこず、俺は前に座る相崎の真っ白いシャツをただぼんやりと見つめていた。

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あきゅろす。
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