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偽りセピアとモノクロ僕ら


誰もいない放課後の図書室であたしは一人、色あせた卒業アルバムを開く。

中には、今はもういないあの人の姿が、記憶よりも鮮やかな姿でハッキリと写っていた。


背後の窓から射し込む夕日が、カラーの写真をセピア色に変え、たった数年前の事をより古くさい印象にして行く。

集合写真の端っこに、壁と一体化するようにして佇むあの人の姿が愛しくて…その平面な姿を指先でそっと、撫でた。



「せんぱ…」


「先輩」

郷愁を込めて呟こうとしたその言葉は、今だけは絶対に聞きたく無かった声に遮られる。


「まーた、そんな奴の写真なんか眺めてるんですか?」

そう言って、相変わらずデリカシーの欠片もないソイツは、ズカズカと大股で歩み寄ると、あたしの手にしていたアルバムを覗き込んだ。


「…何で、まだいるんだ。笹宮」


「先輩を探してたに決まってんじゃないスか。どこにもいないんで、もう帰っちゃったのかとヒヤリとしましたよ」


「待ってろなんて言ってない」


「もう、先輩は相変わらずクールなんだから」

まるであたしの本音にも気付かない笹宮は、三連ピアスのついた口を開けて、ケラケラとさも可笑しそうに笑う。


…その図太い神経と、鈍感な脳みそが欲しいものだ。



「…帰れ」


「嫌っスよ。だって、もう冬に近いし危ないじゃないスか。暗くて」


「…お前に守ってもらう程、ヤワじゃない」


「先輩、そろそろ自覚してくださいよ。自分が、どんだけツンデレ美人か」


「……」

その"ツンデレ"と言う付属語に、意味があるのか無いのかは謎だが…ズイッと顔を覗き込んで来た笹宮の口元から、ほのかに甘い香りがするのに気付く。

これは……


「……女物のリップの匂いがするぞ」


「え?…ああ、さっき何人かとチューしたから、多分それっスね」


「……」

その"軽快"さに、怒るよりも最早呆れ、あたしは黙ってポケットからティッシュを取り出して渡した。


「先輩が、匂い取って下さいよ」


「……」

何を調子に乗ったのか、そんな事まで言ってくる笹宮に"ココで引いては女が廃る"、と負けん気に火がついたあたしは、痛いくらいにゴシゴシと拭ってやる。


流石に、その容赦無い力加減に眉をひそめていた笹宮だったが、不意にグイッと更に顔を近付けて来ると言った。


「襲っていいスか」


「…何だ、急に耳鳴りがするな」


「ってか、もう我慢の限界」


「くそっ、今日の耳鳴りはヤケに酷いな」



「…先輩、しらばっくれないで下さい」

うまくはぐらかそうとしていた腕を掴まれ、珍しく真面目なトーンで言われる。


「あ、耳鳴りだと思ったらお前の声だったのか」


「……」

だから、わざとらしいくらいにそう言って誤魔化してやると、笹宮は一瞬だけそのキレイに整った眉を寄せ、溜め息を吐いた。


そして、今度は少しだけ切なそうに瞳を揺らして、囁いてくる。



「…大好きっス、先輩」


「…あ、また耳鳴りがして来た」




(まだ、カラーにはなりきれないんだ)



2009.11.04*まいみ*僕の罰君の罪

お題;図書室/写真/ティッシュ『あ、耳鳴りだと思ったらお前の声だった』エデンと融合様提出



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