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君が為に、届くことなかれ
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「……やれやれ、こんな所に脱ぎ捨てておられて…」


そんな呆れとも諦めとも取れる言葉を口にしながらも、零刻は柔らかな微笑に頬を緩ませながら、主の褥(しとね)まで点々と続く衣服を拾い歩く。



──…昨夜、夜遅いにも関わらず急に『狩に行く』と言い出した主

一度言い出したら聞かない性分と、時折こう言った突飛な行動があるからにと……黙って見送りをしたはいいが、どうやら、相当本気になって狩りをしたらしく

今朝方、嫌がらせのように山積みにされていたタヌキやキツネの屍に、思わず面食らってしまっていた。



「どうせ狩りをするのなら、もっと"美味しいもの"を持ち帰って下さればいいのに……」

元来、現実的主義の彼は、思わずそうゴチらずにいられない。




すると、拾い集めていく主の衣服から、嗅ぎ慣れない香りがする事に零刻は微かに気付く。



「これは…」

夏の草原にも似た、爽やかな匂い


ふと、気になって簾の奥の褥に横たわる主の姿を見やれば、適当に着込んだ単姿の格好のまま、浅い眠りについているのが目に入る


その規則的に上下する肩の動きを見つめながら、零刻は静かに思った。



この鼻孔をくすぐる仄かに甘く爽やかな香りは、何よりも彼に似合いのものだと──…





「……と、イケない。朝酌の準備をしなければ」

そう言って、無造作に残りの衣服をかき集めた彼は、パタパタと忙しない様子で主の閨を後にする。



すると、そんな彼が手にしている一枚の薄衣から、ひらひらと白い花弁が…風に乗り宙へ舞った。



それは、忙しさにかまける彼の視線に止まることなく…まるで一羽の蝶々のように、簾越しに寝そべる彼の元へと近付く。





その様は、まるで…

昨夜、我が身を摘み取った彼を愛しむように、優しく───…





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あきゅろす。
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