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君が為に、届くことなかれ
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***






「朱莉、ちょっと見て!!」




──…翌日、まだ陽が明けきったばかりの早朝


無理矢理、百合雅とイチによって寝床から引っ張り出された朱莉は、目の前に広がる光景にまだ信じられずにいた。


もしくは、自分はまだ淡い夢の中にいるのでは無いかとさえ疑った。



「……」

だが、ギュウッとつねった頬の痛みに、それが虚無では無いのだと知覚し…込み上がる嬉しさに、胸と喉元が熱くなった。




「…一体、どうなってんだ?コレ」


「さぁ?でも…どうでも、イイんじゃない。"無くなった槍水仙が戻って来た"んだから」

解せない出来事に首を傾げる百合雅の代わりに、イチはそう言って朱莉に微笑む。


そのたおやかな微笑みに、朱莉の口元も自然と綻んだ。



…昨日と全く同じ、荒された土壌の上にひっそりと置かれた たった数本の槍水仙


球根ごと根こそぎ横たわるそれは、きっと土に戻せばまだ芽吹くに違いない




「一体、誰がこんな事…」


「さぁ、神様じゃない?」


「お前なぁ、キリシタンみたいな事言うなよ」




「……」

繰り広げられる二人の会話を耳にしながら、朱莉は静かに“そうかもしれない”と考えた。



たった一晩にして、舞い戻ってきた小さな命

それは、植える前よりも断然に少ない数になっていたけれど…その分、重みのある尊いもの



「また…大切に植え直しましょう」

"神様"から頂いた、大切な命を



「よっし!じゃあ、あたしは今度こそ壊されない柵を作るからな!」


「イチも!イチも、今度はいっぱい手伝う!!」


ハシャぐ二人を両脇にして、朱莉は柔らかく…それこそ、野に咲く清廉な槍水仙のように、儚げに微笑む。




胸に秘めるのは、誰よりも強く、自分自身に誓った切実なる"想い"───…





「今度は、絶対守ってあげるからね」






──小さく咲き誇る槍水仙──



*fin?*

⇒おまけ



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あきゅろす。
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