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君が為に、届くことなかれ
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「あちゃー…見事にやられたな」


その惨状を目の当たりにし、百合雅は頭を抱えた。


しかし、それよりも尚…彼女の隣にいた朱莉は、蒼白な顔で呆然と佇む。



「誰が…こんな…っ‥…」

そう言葉にする唇は、衝撃に震えていた。



「さぁ…大方、タヌキかキツネあたりじゃないのか?」


「キツネ!?キツネって…あの嫌味女の事!?」

百合雅のそんな言葉に、何故か逸早く反応したのは…壱刻ことイチ



「バカ、確かにあの女も"女狐"なのには、変わり無いけど…コッチは、本物のキツネの仕業だよ」


そう言って、少し脱力したように彼女が視線を向けた先は……先日、キレイに整えたばかりのハズの土壌が、何者かの手によってぐちゃぐちゃに荒らされた前庭


小さな手作りの柵も壊され、見事に壊滅的な被害を被ったソコに、花を愛でる事が大好きな朱莉は目も当てられず顔を背ける。



「ゆーちゃんお手製の柵が、脆弱(ぜいじゃく)だったんじゃないのー?」

庭を荒らした張本人であるらしい 獣の足跡をツンツンつつきながら、イチが少し訝しげに言った。


その台詞に、百合雅はあからさまにムッとした様子で切り返す。



「だったら、お前が作れば良かっただろう…!?

自分は何の手伝いもしないで、バクバクまんじゅうなんか食いやがって!!」


「ふーん、だってイチは、ゆーちゃんみたいに力持ちじゃないもーん」


ツン、とアゴを反らして可愛いげの無い態度を取ってみせれば、その様子が更に百合雅の情緒を煽った。



「お前…っ、人を何だと思ってるんだ…!?」

怒りも露に詰め寄ろうとした彼女の前で、スッとしゃがみ込む人影


その人物の悲しげな横顔と哀愁漂う雰囲気を目にし、百合雅は思わずハッと動きを止めた。




「……折角、今年最後の種だったのに…」

ひどく消沈した様子でそう呟く彼女に、百合雅もイチも返す言葉を失って沈黙する。


そして、互いにバツが悪そうに視線を一度ぶつけ合うと、絶望にうちひしがれる朱莉に励ましの言葉をかける。



「あ、朱莉…じゃあ、今度もまたココに新しい種を植えよう!次は、絶対壊されない頑丈な柵を作ってやるから!」


「そうだよ、朱莉!あ、ほら!これから、夏本番になるし…ひまわりの種でも植えようよ!?」





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