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パロディ的な話

平和主義国のサンクキングダムから留学生として日本に来ている、ミリアルド・ピースクラフトは都会の街にはよくあるような高級マンションに住んでいた。
住んでいるといっても、親戚のトレーズが住んでいた場所に居候している形である。
本当は一人で暮らしたいところなのだが、姉のリリーナは極度に心配性だ。
留学先での独り暮らしを心配しており、本当は留学に反対していたのだが、トレーズが自分と一緒なら大丈夫だろうと説得をし、今に至る。

大学から電車の駅までバスで20分。
電車に揺られて約10分。
そこから人口密度が多くなさそうな通りを10分程歩く。
コンビニの角を右に曲がると、この辺りには少し目立つ高さのマンションがそびえ立っている。
…もっとも、バイク通学だから電車の駅からの過程はまったくいらないのだが。
ミリアルドは人混みがイマイチ好きではない。

セキュリティが万全な一階から136の番号の部屋までエレベーターで一気に上がる。

「…ただいま」

鍵を差し込んで扉を開けるとそこには誰もいない廊下がぽつり。
トレーズはああ見えてお偉いさんである。
毎日多忙で会えるのは朝くらいだ。
それでもたまの休みには、構えなかった日数分だけトレーズが構ってくるもんだから、うざったいったらありゃしない。
クシュリナーダ家の息子は随分暇なものだ。

(そういえば、トレーズがどんな仕事をしているか聞いたことがない)

ガラステーブルの上のリモコンを手に取り、テレビをつける。
…今日も暗いニュースばかりだ。
ちょっと空いた小腹を満たすために、冷蔵庫の中を漁ってみる。
…たいした物は入っていない。
仕方なしにパーカーを羽織り、近くのコンビニに行くことにする。
金には特に困っていない、ホットスナックか何かでも買って行こうか。
ついでに今日の晩ごはんも買ってしまおう、作るのは面倒だ。
そうしていざ家を出ようとすると、ザアザアと雨が降っていることに気付く。

「さっきまで晴れていたハズだが…」

天気予報では雨なんて言っていなかった!この様子だとしばらくは止みそうにない。
顔をしかめながら大きめの傘を手に取る。
トレーズが君にはこれが似合う、と言いながら買ってきた少し黒みがかった赤い傘だ。
傘を開いてマンションから外に出ると、思ったより雨脚が激しい。
あまり濡れるのも嫌なので、コンビニまで早足で歩く。

歩く途中の信号機、横断歩道、車の音。
雨が降っているといつもの道でも少し感じが変わるのはなぜだろうか。
しかしこのままでは濡れてしまう。
さっさとコンビニにいこう、どうせ天気予報では言ってなかったんだ、通り雨に違いない。
コンビニで雨宿りしてゆっくり帰ることにしようそうしよう。
早くコンビニに着くために、普段通らない路地の狭い道に入っていく。
近道になるが、普段は狭いうえに人気がないので全く使わない。
だがこういうときは気にしてられない。
小走りになりながら進んでいると、前方に何やら男の集団が見えた。

見たところ成人してそうな大柄男性が3人、その3人に囲まれて、少年が一人。
…どう見ても穏便じゃない。
青年はダークブルーの目で大柄な男達に挑むような眼差しを向けている。
…揉めているだけだ、素通りしようそうしよう。
関わってもバカを見るだけだ。
他人の問題に首を突っ込んでもいい事なんてない、かかわり合いにならないよう、距離を置いて進もうとする。

バキッ!

…ベチャッ!誰かが雨で濡れて水が溜まった地面に倒れたような音がする。
いや、倒れたというのはまだ推測で倒れたと決まったら訳では…
…そして同時に何やら鈍い音がする。
今のはどう聞いても殴られた音だ。
こんな音がして、絶対平和な訳がない。
ミリアルドは追い抜かした集団をおずおずと見返す。
そうすると、想像していた通り、案の定大柄な3人の男に囲まれて、濡れた地面の上に伏せっている先ほどの彼。

(……痛そうだ)

まるで他人事のように考える。
助けるべきか否か。

「あぁ?なんだてめぇは」
「なんだお前、何見てんだよ?」

大柄な男達と目があった。
ああ、今日という一日はなんて不幸なんだ。
心の中でいるハズもない神様を嘆く。

「…何があったかは知らんが暴力は感心しない」
「お前に言われる筋合いはねぇ!」

こっちこそ、いちゃもんを附けられる筋合いはない。
たまたま通りすがっただけで、たまたま目があっただけで、なんたる不幸。
ニヤニヤと笑いながら足元から上半身、そして顔へとねっとりとした視線が送られる。

(……不愉快な奴らだ)

「よおよお兄ちゃんよぉ…ぐあっ!?」

ニヤニヤしならがら近寄って来るもんだから、思わず殴り飛ばしてやった。
ふわり、傘が風に煽られ中を舞い、ゆっくりと地面に落ちる。
そうして殴り飛ばしてしまってから気付く。

(あ、やってしまった…)

強く殴りすぎてしまった、気絶している。
冷静に行動すればこんな事態にはならずに済むのに、つい不愉快すぎて手が出てしまった。
残りの二人は最初は驚いた顔をしていたが、血相を変えてこちらへ向かってきた。
ちょっと不味い状況かも知れない、と思いきや二人のうちの片方の男がフワリと中に浮いたかと思うと、痛そうな音を立てて地面に叩きつけられる。
…先程囲まれていた彼だ。
自分より大きな男一人を投げ飛ばすとは、普通に普通そうな見た目にそぐわない怪力だ。
続いてポカンとした顔で取り残された方は顔面に蹴りを食らいばったりと倒れる。
いったい全体なんなんだ!わけのわからないままその場に取り残されるミリアルド。

「………」
「…怪我は」
「……は?」
「怪我はないかと聞いている」
「あ、ああ…私は大丈夫だが君は…?」
「俺は問題ない、許容範囲内だ」
「は、はあ…」

なんの許容範囲だ。
訳のわからない奴だ。
なんだかやけに雨が冷たい、すっかり忘れていたが先程殴ったときに傘を手放してしまった。
辺りを見渡すと…あった、大きくて少し黒の混じった赤い傘。
地面に落下したままの傘を手にとり刺し直す。
結局濡れてしまっているが。
振り向くと、まるで先程何もなかったかの様に平然と振る舞い、あっけらかんとした表情をする彼。
どうにも凡人ではない気がする。

「…なんだ、俺の顔になにかついているのか?」
「いや…」
「…コンビニにいくんだろう?」
「ああ…そうだったな、私はこれで失礼する」

軽く挨拶をして、足早にその場を立ち去る。
今日はなんだか変なものに関わってしまった。
そうしてコンビニに着いてから、ふと思い直す。

(なんで彼は私がコンビニに行くことを知っていたんだ…?)



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