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ヒイゼク

悲しみの、向こう側。
そのまた向こう側、そこにあるのは喜びか、それとも。

「ゼクス」
「…私は君を知らない」
「俺は知ってる」
「君が私を知っていても、私には関係のないことだ。」

記憶がないらしい彼は、今までの優しい笑みや自嘲気味な笑みなど浮かべずに、ただ淡々と機械のようだった。
ヒイロのことは覚えておらず、記憶を失ったのもヒイロのせい。
わかってはいても、どうしてだろう、やるせない。
無意識のうちにこんなにも大切な人になっていて、どうしようもない。

「思い出すまで、待つ」
「…一生思いださんかも知れんぞ」
「構わない」

お前の側にいれればそれで、と言おうとして、やはり彼は記憶がないことに気づく。
構わないなんて嘘っぱちだ、お互いに愛し合っていたあのときが恋しいに決まっている。
やはり思い出してほしい、なんて今の彼に、口が裂けても言えはしない。
悲しくなって涙が出そうだ。

「…なぜ泣いているんだ」
「……俺が、…泣いてる?」

頬を触ったら、微かに濡れていた。
どれくらい泣いていなかっただろう、こんなことで涙を流すなんて。

(俺は、誰も殺したくない)
(殺したくないはずなのに、ゼクスという人間を殺してしまった)

「……泣かないでくれ、対処に困る」

困ったように、子供をあやすように、頭を撫でられた。
そうやってまた子供扱いをする!
悔しくなってまた涙が出た。
記憶がなくなっても、結局はそうやって。


(俺に優しくしないでくれ!)
(そうやって優しくされたら俺は)
(またお前に溺れてしまう!)





あきゅろす。
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