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物語はここで終わり
どうして世界は限りなくて命は期限があるのだろう、そんなこと誰が決めたんだ。
マダイン・サリで一緒に住みはじめてから、日に日に弱々しくなっていくクジャを見ていると時はなんて残酷なんだろうと思う。
俺だっていつか黒魔導士のように止まってしまうのかも知れない。
愛してるのに伝えられる言葉はちっぽけで、守りたいのに守れない。
ベッドから起き上がるだけの動作も痛々しくて、支えないと折れてしまいそうな気がして不安になる。

「僕のこと、恨んでるだろう?」
「恨んでなかったと言ったら嘘になる」
「恨まない方がおかしいだろうねぇ…」
「でも今は、」
「何回も聞いたからそれはいいよ、そういうのはお姫様に言うといい」

俺の気持ちだってわかってる癖に意地悪な奴だと心の内で毒づく。
本当は言われて嬉しい癖に、こいつは素直じゃないからすぐこうやって照れ隠しのように想いとは逆の言葉を言う。

「最後まで言わせろよ」
「…いい、続きは知らない方が物語は面白い」
「知ってる癖によ」

俺が言いたいことも気持ちも何もかも本当は知ってる癖に、知らないフリをするんだ。
いつだってお前は卑怯だよ。

「なぁ、どうして物語には終わりがあるんだろうな」
「終わりがない物語なんて退屈なだけだろう」
「でもさ、終わって欲しくない物語だってあるだろ」
「…ジタン、どんな物語だって必ず終わりは来るんだよ。命と同じように」

命と同じだなんて、
クジャはさっきから俺と目を合わせてくれない。
外は雨だ、ざあざあと激しく音を立てて降っている。
(泣いている?)
この雨がクジャの心のようで、人知れず泣いているような、
何だかこっちが泣きたくなってきて、いきなりにクジャ抱きついたら驚いたのかすっとんきょうな声を上げた。

「な、何して…!」
「抱き締めるのに理由がいるかい?」
「そういう問題じゃ、」
「いなくならないよな」
「…えっ……?」
「明日にでも消えちまいそうな気がしてさ、怖いんだ。お前がいなくなるの、嫌なんだよ」
「ジタン…」

おずおずと俺の背中に回されたクジャの手はかすかに震えていて、やっぱりこいつも消えてしまうことを恐れているのだと実感する。
死ぬのが怖くない訳がないのだ、実際俺だって怖い。
クジャにキスをしようと顔を見たらやっぱり泣いていて、綺麗な顔は悲しみでいっぱいで。
頬を伝う涙をぺろりと舌でひと舐め、びくりと肩が跳ねる。
そのままゆっくりと唇にキスを落とすと、悲しみでいっぱいだった顔が今度は恥ずかしさからか赤面しはじめる。

「ん、ジタ…」
「クジャ…綺麗だ」

こんなにもクジャは綺麗なのに、もうすぐ儚く消えてしまうなんて。
どうして俺は、こいつを助けられないんだろう。
このままこの物語が永遠に続いてしまえば終わりなんて見なくてすむのに、0と1に還元される運命ならなくてもいいのに、世界も神様も残酷だ。



物語はここで終わり




終らない物語が見たいんだ、クジャ、お前と一緒に


あきゅろす。
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