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海よりも深い眠りについて15

「アスカかっこよかったわよ〜ん」
「んっふっふ、当たり前じゃない」

偉そうに胸を張るアスカをやんややんやとおだてるミサト。
時々厳しいけど褒めるときはちゃんと褒める、飴と鞭というやつだろうか。
あれから使徒はアスカとカヲルが殲滅して、またいつものように何もないような日常に戻った。
ただ、カヲルとはあまり話をしていない。
あの笑顔が、何を楽しそうに話し出すのか、不安だ。
最近は会ってもおはようだとかこんにちはだとか、それぐらいのやり取りだ。

何が変わった訳じゃない、ただアスカが来た、それだけなのに、酷く日常が変わった気がする。
別に嫌な訳じゃない、でもあまり好ましくもない。
そう、普通、普通なのだ。
ここに来る前にもあった、何かありそうで何もなさそうな、沢山の人の声がざわめくスクランブル交差点のような曖昧な日常。
ただそれに近い、そんな感じの日常が来ただけなのに。

(どうしてこんなに、居心地が悪いんだろう)





いつものように学校に行って、ネルフに行って、訓練して。
以前はこんなに変な感じじゃなかったのに、何かが変わった気がする。
でも何が変わったのかわからない、もどかしい。

「く、」
「……」
「シンジ君っ!」
「えっ?あ、あぁ…」

後ろから呼び止められて、振り向くと立っていたのは久しく話していなかった人物、渚カヲル。

「何回も呼んだのに酷いな…」
「あっ、ごめん…」
「…今訓練、終わったのかい?」
「……うん」

しばらく話さなかっただけで話し方を忘れてしまった気がする。
どうやって、彼と話していたっけ。

「…ねぇ、シンジ君、最近僕の事を避けてない?」
「え……?そんな事…」
「僕の事、嫌いになった…?」
「そ、そんな訳ないじゃないか!」

思わず大声を上げてしまう辺りがなんとも恥ずかしいというか……。
実際嫌いになった訳ではないのだ。
嫌いじゃないのに、接し方がわからない、辛い。

「違う…んだ、その……最近……アスカと一緒にいる方が多いみたいだし……なんていうか、その…」
「アスカの事が苦手なのかい?」

苦手だったのだろうか?
苦手とは少し違う気がする。
実力もあるし、素直じゃないけど人当たりもいいし、さりげない気遣いも出来るし…なのに、カヲルと一緒にいるとこを見ていると胸の奥がむず痒くて、キュッと何かに締め付けられる。
苦手……とは違う何か別なものをアスカに向けている気がする。
普通に話す分には問題なく口喧嘩したりで楽しく話せる。
でも何故だろう、アスカがカヲルの事を話している時、とても嫌な気分になる。
その逆もまたしかり。

「…わからない」
「……そう」

わからないのだ、不器用な自分の中に生まれた曖昧な感情が。

「ねぇ…アスカを嫌いにならないでほしい、な」
「え…?別に嫌ってなんて……」

ないと言いかけたけれど、最後の方は小さく尻すぼみになっていく。
嫌いなのかそうじゃないのかイマイチわからない。
本当に曖昧すぎて、自分で理解し難い。

「彼女…気難しいところもあるけど本当はいい子だから」
「……そう」
「…シンジ君?」

嫌いじゃない、もどかしい、わかっているのに理解出来ない。
どうして自分はこんなに乱れているんだろう。

「嫌いじゃ…ないんだ、多分……けど………」
「けど?」
「君と惣流が一緒にいると…嫌だ……」
「……、」

一瞬、空気がはりつめた。
胸にドキリとした感覚がカヲルの中に走る。
そして考え直す。
……はて、どうして今自分は彼にドキリとしたんだろう。

どうしても放って置けないような、前にもこんな事があったような、好意を感じているような……。

「僕は誰かと一緒に居ては駄目なのかい?」
「そうじゃないけど…」
「君だって他の誰かと居たりはするだろう?今僕が君といるように……そんなに考えることじゃないさ、僕は君と今まで通りにやっていきたいな」
「……うん…」

いつも通りふんわりとした微笑みを浮かべるカヲルに対して、シンジ申し訳ない気持ちでいっぱいになってきた。
困らせているのは自分だというのに。
それでも彼にその微笑みを向けてもらいたいばかりに、困らせてしまう。
なんて悪循環。


(僕は……駄目な奴だな)


キミのことが好きなのに傷つけてしまうなんて



.
しばらくシンジがモヤモヤし続けます(笑)


あきゅろす。
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