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海よりも深い眠りについて12
ピンポーン、ミサトのマンションのチャイムが鳴り、シンジとアスカが扉へ向かうとシンジの友達であるトウジとケンスケ、アスカの友達であるヒカリが立っていた。

「ぺ、ペアルック…!?」
「裏切りもん…!」
「不潔よ…!」

そして三人それぞれ出した言葉がこれ。
二人はどういう訳だか同じ格好で出てきたのだった。
まあ二人とも好きで着ている訳ではないらしいが。
日本人はまず形から入るもの…らしい。
三人が室内に入ると、座ったレイとカヲルとミサトがファーストフードを何やら美味しそうに食べていた。
ミサトに至ってはハンバーガーにがっついている。
そしてシンジとアスカはヘッドホンを着用し何やら変なマットような物の上で変な動きをしている。
てきぱき動いているアスカに対しゆっくりと動いているシンジ。
見るとアスカの顔はしかめっ面、ようするに苛々しているようだ。
一体全体なんなんだ。
とりあえずはのんきに座ってファーストフードを食べているカヲルとレイに話を聞いてみる。
ちなみに二人ともポテトばかりを食べている。

「これは次の作戦らしいんだ」
「……はぁ」

トウジ、ケンスケ、ヒカリの三人は対応の仕方がわからず、気の抜けた返事を返す。
次の作戦…これが?
ペアルックでもする作戦なのだろうか。
改めて聞き直すと、音楽に合わせてエヴァの動きを合わせ、ユニゾンとやらをするらしい。

「あぁもう!」

アスカがそう言ってヘッドホンを床に叩きつけた。
やはり声が苛々している。

「代々こんな奴に動きを合わせろって方が無理なのよ!」
「なんだよこんな奴って!?」

二人とも仲が悪いようで、すぐに口論に発展してしまった。
まるでいがみ合う犬と猿、そう、犬猿の仲。

「じゃあやめる?」
「……、他にいないんでしょ?」
「…渚君」
「…はい」

ミサトが見かねたのか、アスカとカヲルに代わるよう要求した。
先程までアスカが立っていた位置にカヲルが立ち、制服姿のままヘッドホンを装着する。
すると音楽が流れ出した途端、一緒に同じ動きをはじめる。
一寸の狂いもない、全く同じだ。
もっともカヲルがシンジに合わせているようだったが。

アスカの目が、全く同じ動きの二人を交互に見る。
全く、ほんの少しの狂いもないのだ。
まるで一心同体とでも言うべきか。

「こりゃ作戦変更してシンジ君と渚君にした方がいいかしら?」
「……もう嫌!やってらんないわ!」
「アスカ…!?」

立ち上がるヒカリを気にする事もなく、アスカは引き戸を勢いよく閉める。
閉める瞬間、アスカの今にも泣きそうな顔が一瞬見えた。

「……碇君、渚君っ!」
「え?委員長、な…」
「女の子を泣かせたのよ!?謝ってきて!」
「洞木さん…?」
「いいから、早く二人ともアスカに謝って来なさいよ!」

ヒカリの凄い剣幕に押され、二人はアスカの後を追った。
アスカを追う、といっても既にどこへ行ったのやら。

よくわからないまま、二人はキョロキョロと周りを見渡す。
シンジは格好が格好だからある意味で不審者だ。

「すまないね、アスカが迷惑をかけてしまって…」
「え、カヲル君が謝る事じゃないじゃないか…にしてもアスカの奴なんでいきなり…?」
「彼女、負けず嫌いだから…」

なる程、カヲルに出来て自分が出来なかったから、だから悔しかったのか。
それとも別の理由があったのか?あったとしてもその理由はシンジにはわからない。

人一倍プライドが高くて、負けず嫌い。
自分が一番じゃないと、特別じゃないと気がすまない。
自分を何よりも誇っていて自信があって。
その自信が不思議と成功へ繋がる。
いい意味で自分の芯というものをしっかり持っている。
それが彼女だ。
なによりエヴァのパイロットとして小さな頃からずっと教育されてきた少女だ、エヴァに関する事では負けたくないのかも知れない。
どちらにせよ負けず嫌いなアスカを傷付けてしまった事は事実だ。

「でもそれはそれで彼女の良いところなんだ、分かってあげて欲しいな」
「うん…」

こうやって話を聞いていると二人が幼なじみだという事が実感出来る。
どうやらあの話は嘘ではなかったらしい。
彼がドイツにいた頃どんな付き合いだったかはさておき、カヲルはアスカの事をよく知っていて、アスカはカヲルの事をよく知っている。
なんだか不意に羨ましくなった。
アスカは自分のまだ知らないカヲルの部分を知っているのだろうか。
そう思うだけで、アスカにすら嫉妬してしまう。

(駄目だな、僕…)

首をぶんぶんと左右に振って、嫌な考えを断ち切る。

「あ、シンジ君、アスカ…いたよ」

カヲルが指差した方向はコンビニ。
ガラス窓越しに、しゃがんでドリンク類を見ているアスカを発見した。

だがもし話すとしてなんて謝罪をすればいいのだろう。
動きがトロくてごめん?それとも合わせられなくてごめん?
どれもシックリこない、今の彼女への謝罪としては不適切だ。
そうこう考えてるうちに、カヲルは駆け足でコンビニへと入って行ってしまう。
どうしよう、まだ何も考えていない。

「…アスカ」
「何も言わないで」
「……?」
「やるわ、私」

アスカの青い瞳が、何かを決心したように遠くを見つめていた。





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ぬるぬる動きだしますシンジ君の心の内側
で、ぬるぬるってなに(笑)



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