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別れの夜
柔らかいベッドに深く沈んで、下唇を血が出る程にキュッと噛む。
血の味だ、気持ち悪い。
一緒にいたら傷付けてしまうという事を知って、大嫌いと言ってしまった昨日。
眠れない夜は、いつも携帯からボタン一つで声を聞いていたのに。
今は怖くて声すら聞けない。

「なんで…あんな事言ったんだろう」

伏せた瞼をゆっくり上げて、握り絞めていた携帯電話をゆっくり開く。
勿論着信なんて、ない。
着信のない携帯が、こんなにも寂しいなんて。
相手に電話をかけようとして、ボタンをピッ、と押してみる。
後一手、小さなボタンを押せば簡単に相手に繋がるハズなのに、指が石になったみたいにボタンを押す事にブレーキをかける。

「………、」

あんな事を言ってしまったんだ、どんな風に話せばいいか判らない。

「もうこれで、終わり…なのよね……」

自分で終わらせてしまった、もう後戻りは出来ない。
勝手に目尻に溜まりだした涙がすっ、と頬を落ちる、と同時に携帯から軽快にぴぴぴと鳴り、バイブレーションが大袈裟に携帯を震えさせる。
着信だ、相手は……

(渚…カヲル、)

震える指で受話器を上げて、そっと耳に押し当てる。

『もしもし、』
「……っ、」
『セカンド…?』
「な…に?」

電話越しに聞こえるカヲルの声はどこか沈んでいて、不安が心の奥底から湧き上がる。
それでも待ち望んでいた相手で、仲直りしたい、という気持ちが前へ前へと先走る。

「あの、フィフス…」
『あの、さ…僕は君にお別れを言わないといけない』
「え……?」

お別れ、自分が酷いことを言ってしまったから?
それとも酷い態度を取ったから?心当たりがありすぎて、逆にああ、当たり前かと思ってしまう自分が虚しい。

「ね、え…言ってる意味がわかんないんだけど…」
『僕と君はもう、二度と会えない…だからその前に君の声を聞いておきたかった』
「ねぇ…ちょっと勝手に話を進めないでよ!」

会えなくなる?どこかに引っ越すとかそういう事なのだろうか?
突然に告げられた別れにどう反応すればいいかわからない、困惑。

「私が…悪いの?」
『君は…悪くない。僕は消えなきゃいけない定めなんだ』
「ワケわかんないわよ…!」
『うん、わからない方がいいと思う……今までありがとう、アスカ』
「………、」
『さよなら、大好きだったよ』
「ちょっ、待っ…!」

さよなら、一言残してぷつりと電話が切れる。
制止の声は自分以外誰もいない小さな部屋に虚しく響いて、カーテン越しに見える窓の外側からの闇夜の雨音で消されてゆく。
着信履歴からリダイアルでかけ直すも、相手は電話に出てくれない。

「なん、で……」

大好きだよとはじめて言われた、名前ではじめて呼ばれた、それなのにその瞬間がこれなんて。
どうせこうなるんなら、はじめから言ってくれなくたって、よかったのに。

(それでも大好きって、私からも言っておけばよかった)




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いつの間にか悲恋に(笑)



あきゅろす。
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