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夕焼け染まるあの日あの時
夕焼けの赤に染まる誰もいない教室、無音の廊下。
昼間は沢山の人がいて賑やかな場所も時が立てば何事もなかったかのように静けさを取り戻す。
私はその誰もいない教室が好きだった。
何の音もなく、誰かの気配もない、一人の空間。
傷付いた心も、嫌な事ばかりでぐちゃぐちゃの頭の中もこうやっていると何もかも忘れられる気がする。
誰にも、邪魔をされないから。

少量の生徒がちらほら下校しているグランドに目を向ける。
暢気にケタケタ笑ってる下品な男子生徒達に一人で一匹狼でも気取ってるようなかっこつけた隣のクラスの女の子。
皆皆、馬鹿みたい。
ふと男女で帰ってるカップルが見えた。
何故だか見ているとそのカップルが羨ましくなってくる。
自分は、自分はこうやって一人感傷に浸っているというのに。
目を細めて、上から恨みを込めて睨みつけてやる。

「…何よ、バッカじゃないの」
「何がバカなの?」
「うわっ!?」

後ろから急に声がして、びっくりして振り返ると自分が大っ嫌いな人物が立っていたもんだから、驚くと同時に怒鳴り付けてやった。
フィフスチルドレン、渚カヲル。
私のライバルであり、同級生でもあり。
顔はいいのに性格は最悪、よくいるわよね、そういう女。
デリカシーまるでなし、もっと王子様みたいな優しい性格ならよかったのに。

(…あれ?優しいって何かしら。)

「うっさいわね、あんたには関係ないでしょ!?」
「なんで?セカンド、今とても悲しそうな顔してたよ?」
「な…」

悲しそう?私が?馬鹿じゃないの!
私、今凄い腹立たしい気分なの、腸が煮えくりかえりそうなの!!

「何か、一人でいるの凄い寂しそうだったよ」
「うっさいわね、その口閉じないとぶん殴るわよ!」
「………」
「ちょっと、何か言ったらどうな訳!?」
「君、口閉じないと殴るって言ったじゃん」
「っ、」

ああ嫌い嫌い。
こいつといると苛々する。
こいつのペースに乗せられるというか、言い返してもきりがないというか。
私の思うようにいかないのが凄いムカつく。
嫌いとはちょっと違うような気持ちもあるけど、とにかくイライラする。

「君さぁ、さっき校庭を歩いてた男女のリリンを見て凄い目してたよ」
「な、いたなら声ぐらいかけなさいよ!?」
「その後かけたじゃん」
「……で何が言いたいのよもう!」
「もしかしてさ、ああいうの羨ましい訳?」
「う、羨ましくなんて、」

ない、言いかけて、どもっちゃう。
ああ!何でこいつの前何かでこんな恥ずかしい思いしなきゃいけないのよ、最悪!
よりによってこんな奴の前で…拳を握ると指先が白くなる。
わぁ力入れすぎ、爪が食い込んでる、痛いけど力んじゃう、私今あいつを思いっきりぶん殴りたい。

「ねぇ、セカンド」
「な、な、何よ…」
「キスしよっか」
「はぁぁあ!?」

誰もいない教室に私のかん高い声が響き渡って耳に届く。
目は馬鹿みたいにおっきく見開いてて、何かやけに瞳が乾く。
というかこいつ今なんて言った!?
キス?私と、キ、ス?
こういうところがデリカシーないのよ!馬鹿じゃないの本当!
とか言いながら顔が真っ赤な私も馬ッ鹿じゃないの…!
キスしよっか、脳内で何回もテープレコーダーが巻き戻ってはまた再生の繰り返し、キスしよっか、ずっと流れてる、鳴り止まない。

「何、冗談言って、」
「僕結構本気なんだけど。興味があるんだよね、リリンの異性間の行為」

そう言っていつものニヤニヤした笑顔で近寄ってくるフィフス。
おかしいな、ハイキックをいつもみたいにお見舞いしてやりたいのに脚が動かない。
右ストレートは?握り締めただけの拳がふるふる震えてこっちも動かない、左アッパーなら!駄目だわ、指先がピクピクして拳にすらならない。
私もしかして動揺してる?
そうこうしてるうちにフィフスが私の目の前にいて、頬に手が添えられて…
恥ずかしくなって、今まで目玉が溢れ落ちそうなくらい開いてた目を急にギュッ力強く瞑る。

「………、」
「……」

唇に、柔らかいものが触れる。
本当に触れるだけのキス、何かちょっと寂しい…って…私何考えてんのよ……
しばらく無言が続いたかと思うと、フィフスがうーん、と唸りだす。
こういう時フィフスはろくな事を言わない、さっさと退却しよう。
そう思いフィフスの横を無言ですり抜けようとすると、手をいきなりに捕まれた。
ななな、何!?まだ何か用がある訳!?
言っとくけど私、今まともな返事が返せる自信なんてないわよ…?

「ねぇセカンド」
「な…何よ…」

「続き、やってみようよ」

「はっ!?……んっ」

また、キスされる。
今度はさっきとは違う、長くて深い、キス。
なんだろ、頭の中がくらくらする。
フィフスの手が、白魚みたいに綺麗な手が、私の制服に伸びてくる。
しゅるりと布の音がして、リボンがパサリと地面に落ちる。
パサリと落ちる、その音で急に頭がフル回転、何かに覚醒したみたいにフィフスを思いっきり押し退ける。
その時の私の力といったらアホみたいに強かったもんだからさ、フィフスが机ごと床にドンガラガッシャン!尻餅ついちゃっていい様よ!

(でも、ちょっと痛そうだった)

「な、にすんのさ!」
「何ってこっちの台詞よ馬鹿っ!」
「何がだよ!」
「うっ、うっさい!正当防衛よ!!」

顔から火が出そう、カッコ悪いけど私、こいつを意識してる。
あぁ、さよなら加持さんのために残しておいたファーストキス…そしてウェルカム新しい恋…いろんな物がごちゃごちゃに連鎖してもうどうしよう。

「そ、その…怪我…しなかった?」
「なにさ、自分でやった癖に…」
「だからあれは…あぁもう!!」

イライラとときめきが半分ずつ混ざりあって複雑な心境。
いつまでもこんな所にいたら気がヘンになりそう。
こいつといたら、イケナイ気がする。

「あんたなんか、」
「あんたなんか?」
「あんた、なんか…」
「あんたなんか…?」

あんたなんか、それだけ言って、何か恥ずかしくなった。
嫌いではないような気がして、普通ともちょっと違う気がして、でもそしたら残る選択肢は、もう意識とかそういうんじゃなくてとにかく恥ずかしい、恥ずかしい、恥ずかしい。
急に逃げ出したい気分になって、いつもの倍速の早さで教室から廊下へ、そして階段まで猛ダッシュ!

(いまならチーターにも勝てそうだわ!)

「あ、ちょ、セカンド!」

あいつの声も聞こえない、聞こえないふり。
今、どんな顔してるだろう。
驚いてる?悲しんでる?そんなの関係ない、私の馬鹿みたいに恥ずかしい顔を見られてなきゃ関係ない。





夕焼け染まるあの日あの時




(今度アイツにどんな顔して会えばいいだろう?)
(とりあえず、最初に突飛ばしてごめん?)
(今度キスする時は、もっとまともな場所がいいわ)
(もう!私何考えてんだろ…)




.
電波チック目指してこんな感じになってしまった!
あれ、何かリクエスト違う…気が…すすすすいませ…orz
…危うくえっちくなるとこでした(笑)


あきゅろす。
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