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感情

レイが使徒に侵食された時、自分が侵食されたあの時、自分の中に流れ込んできたあれはなんだったんのだろう。
碇君、と呼ぶ声の中にドロドロしているものがあって、気持ち悪くて、胸が締め付けられる。
思い出す度に怖くなってぎっと服の端を握った。
あれは、あれはなんだったのだろう。
あれはレイの感情だったのだろうか、それとも使徒の感情だったのだろうか。

わからない、あれの正体がわからない。
あれの正体は一体何?
あれは綾波レイの感情?気持ち?
だとしたらわからない、彼女の気持ちが、感情わからない。
彼女だけじゃない、自分の感情の意味も、他人の感情の意味も。
それは自分が感情を知らないから?
自分が人間じゃないから?
涙の意味を知らないから?
ドロドロしたあの感情の正体を知らなくては、どうしても知らなくては。
でもどうやって?

──碇君。

碇シンジ、あのドロドロした感情の中にあった彼への思い。
これは、何?
彼女は彼に微かながら好意を抱いていた。
つまりこれは、愛情?好きということ?
他人へ向けられる、特定の人間にのみ向けられる感情。
誰か誰かと求めるのではなく心の中にいる一人だけを求める感情。
彼ならばこの感情の意味を知っている?

知りたい、知らないといけない。

「ねぇシンジ君」
「…何」
「好きって…何?」
「なんだよ急に…そんな事君は知らなくていいんだよ」

それにもう好きになんてなりたくないんだ、誰かを好きになってまた失ってしまうのが嫌だから。
そう言ってシンジの口は開かない。

「誤魔化さないでよ」

知らなくてはならない、生きていくには。
誰かを知るには。
この人の中に入っていくには、知らないとこの人を知れない。
でも何故?

──そうしないといけないから。
そうしないと委員会の、老人達の命令に背く事になるから。
背いてしまったら、消されてしまう。

「…渚?」
「ねぇ、君が僕の事好きになったらどうなる?」

そして僕が君を好きになったらどうなる?
ファーストの涙の意味も感情の意味も全部わかる?

君の事、まだ知らない感情の事、知らないと消えてしまう。
消えたくない、消えたくない。
与えられた体、人を知ること、それを失いたくない。
自分が希望を抱いていた未来が、また遠ざかっていく。

「ねぇ…」

どうして、何も言ってくれないの?
知らないといけないのに。
どうしてその口は開かれないの?
ただ知りたいだけなのに。


──僕は知ることも許されないのか

何もかも許されない事だらけ。
死ぬ事も許されないのに生きる事も許されない。
自由の意思なのに自由が許されない。
目の前の彼は自分が知ることを許してくれない。
自分は、自分はどうすればいいんだろう。

…どうすれば。

「渚…なんで、泣いて…」

教えてくれないから、知れないから、涙が零れてくるから、涙の意味がわからないから。
どうして泣いているんだろう。
意味もなく涙が溢れてくる。
胸が締め付けられて、苦しい、気持ち悪い。
でも流れ込んできた感情と同じような感覚。
何も言ってくれないから、レイと同じように接してもらえないから、もしかして嫉妬している?
これが感情?

感情はこんなにも苦しくて、胸が締め付けられるものなの?

「シンジ君、」


「僕、君の事が好きなのかな…?」

何も言わない、自分には優しくしてくれないシンジ。
綾波レイには優しかったのに、彼女が死んだ時は凄く悲しんでいたのに。
綾波レイ、そうだ、彼女のせいでこんな感情を知ってしまったのだった。

感情がこんなに苦しいなら、知らなくてもよかった。
死んでしまう方が楽でよかった。




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感情がわからない自分と優しくしてくれないシンジに葛藤する渚(笑)


あきゅろす。
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