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ハルジオン

何処かへ行くことなんてないわよね?消えたりなんてしないわよね?
何回も何回も聞いて、何回だって答えてくれた。
何回も答えてくれたハズなのに、その人はどこかへ消えた。
嘘だったんなら何も言わなくてよかったのに。
すがるように何度も何度も触れ合って確かめあったハズなのに、その温もりは何もなかったかのように消えようとしている。
皆だってそうだ。
まるで最初からその人がいなかったかのように振る舞っている。
皆、既に忘れてしまっているんだ。

「アスカ、いつもその花見てるんだね」
「……うん」

嫌だ、忘れたくない、そう念じるように私はいつもこの花を見ている。
彼が、カヲルが、フィフスが私に似ていると言ってくれた花。
名前があったな、背が高くてすらりとしていて、白くて、毎年暖かくなる頃に咲く花だ。
白くて繊細で、それでいて強くて私に似ていると言ってくれた。
だけど本当は私なんかよりずっとフィフスの方が似ているんだ。
繊細で、脆くて、誰にも弱いところを見せない。

でも私には見せてくれた。
もう辛くて苦しいって、泣いていた。
私は、あいつの全部を知っているんだ。
その泣き顔を、大好きだよと言っていたあいつの顔を忘れたくなくて私はいつもこの花を見ている。

「その花なんていうの?」
「…ハルジオン」
「へぇ」

どうでもよさそうなシンジの返事、どうでもいいなら来ないでよ。
私とあいつの思い出を汚さないでよ。
あいつを殺したくせに、私から全てを奪った癖に。

「ねぇ、ミサトさん心配してるよ。花なんか見てないで…」
「花なんかじゃない!」
「アス…」
「花なんかって言わないでよ!花なんかって…」

あんたにとっては花なんかでも私にはたった一つの支えなんだ。
誰も見方がいないたった独りでの世界での唯一の支えなんだ、花なんかじゃない。

私はあいつの言葉を無視して毎日毎日何かを奏でるように水をあげている。
ジョウロから流れ出る水がキラキラ光って虹を作る。
触ろうと手を伸ばしたら虹は消えていた。
毎日そんな繰り返し、ジョウロの中身がなくなるまで、ずっとこの花に水をあげている。
毎日ずっと見つめている。
それだけであいつを感じられる。
でも、いつしか花は枯れていた。
あるのは地面に沢山ある水溜まりだけ。
目から溢れ出す涙が地面に新しい染みを作った。
どうしよう、あいつとの証が消えた。
私が大好きだったあいつとの証、大好きだった花。
枯れちゃった。
嫌だ嫌だ、忘れたくない。

忘れたくない、名前があったな、この花の名前はなんだった?
白くて背の高い、ハルジオン。
ハルジオン?
いや、違う。
白くて繊細で、私?
いや、白くて背の高くて繊細な──


───フィフス。


滲んだ世界に、小さな新しい芽が見えた。



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BUNPのハルジオンという曲を聞きながら書いたもの。
何故か死にネタに(笑)



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