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海よりも深い眠りについて10

「上がってよ」
「えっと…お邪魔します」
「あら?渚君?」

奥の方からミサトが笑顔でカヲルを出迎える。
特にカヲルが来る事に対して何か不快に思っている訳ではなく、快く受け入れてくれた。


「ね、言ったでしょ」
「でも…きっと僕の正体を知ったら……」
「え?何?」
「いや…ごめん」

力なく放った言葉を聞き取ろうとしたシンジに、相づちをうっていつも通りに微笑んでみせた。
なんでもないよ、の証であると共に彼が一番安心する表情。

「じゃあ食事の用意するから…座っててよ」
「あ、うん、ありがとう」

シンジは冷蔵庫の中をごそごそと漁り、料理を作りはじめる。

「あ、シンちゃん、今日は私がやるわ〜」
「え?ミサトさんが?」
「ええ、リツコも来るんでしょ?腕によりを振るうわよん!」
「え、えぇ…出来るんですか……?」
「大丈夫大丈夫、まっかせなさぁい!」

台所からそんな会話が聞こえた後、シンジが苦笑いをしながら戻って来る。

「ミサトさんが作るってさ」

テレビ見よっか、とシンジはそこら辺に置いてあったリモコンに手を伸ばす。
と同時にピンポーン、と呼び出しのチャイムが鳴る。
恐らくリツコが来たのだろう。
どたどたと走る足音が聞こえた後、ガチャリと扉が開く。

「あら、リツコ早かったじゃない」
「もう、いきなりミサトの家で食べるなんていうから急いで仕事片付けて来たじゃない」
「はいはいっと、まあ上がって上がって」

シンジがカヲルをマンションに呼ぶ少し前、カヲルはいつも一緒に食事をしているリツコも呼んでもいいかとシンジに尋ねた。
断る理由も特になく、シンジは勿論、と首を縦に降った。
なんだかんだ言ってカヲルとリツコは同居人だ、そういうところは気が利くのだろう。

「はい、ミサト特製カレーよん」

ミサトが三人の前にカレーと言って出した物体、なんだか異様な臭いがする。
見た目は普通なのだが、何故か臭いはカレーではない。
不安を抱きつつ、三人はカレーを一口。

「…これ作ったのミサトね」
「……お、美味しいとは言い難いですね…」
「…やっぱり僕が作った方がよかったんじゃ…」

三人とも顔をしかめながら言いたい事をすらりと言い放つ。
不味い料理とは人を正直にさせるのだろうか。
実際シンジはミサトのマンションに来たとき、ミサトがいかに料理下手かを思い知らされた。
ピカピカのキッチン、いかにも使ってなさそう。
…つまり実際料理はしない事がわかる。
何より決め手は数日前に無理矢理食べさせられたミサト特製ビーフシチューとかいう紫色の物体。
一口食べた瞬間、強烈な吐き気に襲われた。
料理だけじゃない。
そこら辺に散らかったお酒のビン。
溜まったゴミ。
見ただけで理解した。
…葛城ミサトは家事がさっぱり出来ないと。
その為シンジは家事全般をやる事が強制的に決定されてしまった。
平等にじゃんけんで決めるとか言ってゴミ捨てだってほとんどシンジがやるハメになってる。
全然平等じゃない。

そして等のミサトはというと、どうせ私の料理は不味いですよー、とひねくれミサトは特製カレーをカップ麺にかけ始めている。
なんでもこれがいけるんだとか。
というかなんでも特製とつければ良いというもんじゃない。

「カヲル君ごめんね…こんな物食べさせちゃって」
「ムッ、こんな物とは何よ」
「だ、大丈夫だよ…ギリギリ食べられるから」
「あら、無理しないで帰りに何か外食でも食べましょうよ。ミサト特製カレーよりその方がずっといいわ」
「あんたら結構キツイわね…」

そう?と笑ったリツコの横で、カヲルが小さく笑っていたような気がした。
今、彼は楽しいのだろうか?
この瞬間が、一瞬が、楽しいと感じているのだろうか?
彼の小さな笑み一つで、急に自分が幸せになったような気がして自然にシンジも笑みが零れた。




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次回、ついに彼女が登場(笑)
JAの話を書いてないのは別に書かなくてもいいやと思ったから(笑)




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