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貴方の手が欲しかった



貴方  
    の
         が
ほしかった





私は急にお腹が空いて夜中にいつもの街へと飛び出した。
飢えを満たすため、人の血を吸うためだ。
勿論誰だっていい訳じゃない、私にだって好みくらいある。
出来ればおじさんじゃなくてこう若い…15くらいの男の子がいいかな。
バサバサ音を立てる羽を背中に閉まってから、屋根の上に腰を降ろす。

「おっ、獲物はっけーん」

高い屋根の上から先程発見した人間を見下ろす。
向こう側から歩いてくる人間、さあ襲ってしまおう、そう思って屋根から飛び降りようとしたが、脚が動かなくなった。
その人間と、目が会ってしまったから。
そして、その瞳に心奪われてしまったから。
一目惚れ、と言うやつだ。
月明かりに照らされる、真っ赤な瞳。
普通の人間と思えない程の端麗な顔と、真っ白な肌。
よく見るとこの街の司祭服を着ている。
つまり、神父。

「……、」
「…?そこの方、危ないですよ」

私にはえてる尻尾と耳が見えないのかしら。
それとも私の髪で耳が隠れているため見えないとか。
どちらにしろまあ暗闇だから仕方がないか。
どうやら私を普通の人間と勘違いしているらしい。
幸いとでも言うべきか、私はふと彼に近寄りたくなった。
だけど私はヴァンパイアであり、知られたら彼に驚かれるどころか、もしかしたら浄化されかねない。

「あの…」
「……っ」

なんだかいたたまれなくなり、屋根の反対側に飛び降りた。
彼はさぞかし驚いた顔をしていることだろう。
普通の人間なら死んでる高さだ。

翌日、私はどうしても彼に近づきたくて、変装をして会いに行く事にした。
赤い頭巾を被って、下は黄色いロングスカート。
これなら尻尾も見えないし、耳もバレない。
教会に入ると、息が詰まって物凄く苦しくなった。
教会全体に結界か何かが張られているのだろうか。
あまりの苦しさに、立ち眩みが起こる。

「大丈夫ですか?」

壁に寄りかかっていると、忘れる事のない、あの声がした。
昨日会った、彼の声。

「あ、少し立ち眩みがして……でも、大丈夫よ」

気恥ずかしさ半分、苦しさが半分、私は教会から急いで立ち去ろうとする。

「あ、待ってください」



「昨日、屋根の上にいた人ですよね?」

なんだバレてたのか。
思わずはい、と返事をしてしまう。
その後彼は外での食事に誘ってくれた。
お腹は空いていたけど、私は人間の血以外興味はない。
それでも、彼に近づくのには丁度いい。

彼の名前は、カヲルというらしい。
私にも名前を聞かれたけれど、私には元々名前なんてないので前に血を吸った女の名前…アスカと名乗っておいた。
私にしては機転がきいてるじゃない、うん。

トマトの入ったパスタをもたくた食べていると(と言ってもトマトしか食べなかったけど)彼がニコニコしながら楽しそうに話しかけてくる。
あんな所から飛び降りてよく生きてましたね、とか教会へは礼拝に来たんですか?とか。

「私が飛び降りて驚いた?」
「少し、ね」

たわいもない話なハズなのに、話をしていて楽しくなった。
自然と、笑みが込み上げてくる。
こんな気持ち、はじめてだ。

「…今日はありがと」
「いや、僕の方こそ…」

今まで話せる友達とかいなかったから、と言って微笑むカヲル。
そう、友達いなかったの。
…友達。
何故か友達という響きに、嬉しさを覚える。
それと同時に、悲しみも。
私は友達で、それ以上じゃない。
仕方ないわよね、まだ会ったばかりなんだから。

赤い光が私の影を作る夕方、誰もいない煉瓦造りの道を無駄話しながらゆっくり歩く。
カヲルに目を向けると、白い首筋が目に入った。


…彼の血は、美味しいのだろうか。
あの瞳の色のように真っ赤なんだろうか。
どんな味が、するんだろう。

……いけない、何考えてるんだろ私。
乾いた口にヒュッ、と息を飲み込むと、何かを意味するように勢いよく風が吹いた。
それと同時に、私の被っていた赤い頭巾がヒラヒラと舞って行く。

「あっ…」

私の声に反応して、カヲルが此方を向いた。
私の耳を見て、真っ赤な瞳が大きく見開く。
その真っ赤な瞳を見た瞬間、私の中の何かが崩れ落ちたような気がした。
折角掴んだ糸を離してしまったような、そんな感覚。
もしかして私は彼と恋仲になれるかも知れないというかすかな希望を抱いていたの?
カヲルは何だか悲しそうな顔をしている。
当たり前か、初めての友達が人間じゃなかったのだから。

「…アスカ、」

やめて、そんな顔をさせたかったんじゃ、そんな声を聞きたかったんじゃない。
悲しそうなカヲルの顔を見ている事が出来なくて、顔を下へとうつ向ける。
きっとカヲルの瞳には下を向いて苦虫を噛み締めているような顔をした私が映っているんだろう。
ヴァンパイアの耳を丸出しにした私が。

「君は…」
「っ、ごめん…!」

バレた、今度こそ本当にバレた。
あの夜みたいにわからなかったじゃ済まない。
知ってしまったら後戻りは出来ない。

「アスカ!」

私はカヲルに背中を向けて、一気に煉瓦の道を駆け抜けた。
誰もいないのは、神様が気を使ったのか。
カヲルの声は聞こえない、聞きたくない。
しばらく走って、カヲルに見えなくなったところで背中から羽を出す。
強くに羽ばたいて、街の外へと急いで逃げ出した。

近くにあった森の中に降り立つと、無性に泣きたくなった。
無意識に涙が溢れ出てくる。

「ふっ、く…ぅ……」

なんで、逃げちゃったんだろう。
ふと足元を見ると、私が被っていた赤い頭巾が落ちていた。
こんな所まで飛んで来てたのか。

もしかしてあの風は、カヲルに近寄った私への罰だろうか。
人間に恋なんてしたから。
でも、好きになっちゃったんだ、あいつの事を。
あいつは私の事をちゃんと覚えていてくれるだろうか。
私のアスカという偽りの名前を覚えていてくれるだろうか。
そんな乙女チックな事を考えている私が嫌になった。
人間とヴァンパイアなんて、結ばれないのに。
あいつの顔を思い出しながら、一日中膝を抱え込んでひたすらに涙を流し続けた。



──この日以来、私はあの街に行く事をやめた。



辛い事を思い出したくないから、またカヲルを見てしまったら私が私じゃなくなってしまいそうだから。
それでも、例え二度とあの街に行かなくっても、私が好きなのは一生───


.
ヴァンパイアパロいかがだったでしょうか
やたら長くなってしまいましたね(笑)
悲恋風に仕上げてみました〜
リクを見た瞬間、これは!と思いパッと手が動きました
ようするに書いてみたい!と思ったんでしょうね(笑)
書いていて非常に楽しかったです!


あきゅろす。
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