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海よりも深い眠りについて7


海、赤い海。
またこの夢だ。

『起きて』

──誰…?

見たことがあるけど、見たことがない。
なんだろう、暖かい
記憶にはあるのに、忘れているような感覚。
目の前にいる彼は誰で、自分はナニで、どこにいるのか。

『僕は、』

──えっ……?

何を言ったかよく聞こえない。
前にも会った気がする。

──ここはどこ…?

『全ての生命が集まるところ、そしてはじまり』

──はじまり…?

『そう、はじまり。だから君が決めるんだ…世界のはじまり、君が望んだ世界』

──自分で決める…?

『さぁ、何を望むんだい?』

自らの望んだ世界を造れる。
全てを望むように出来る。
それなら

───僕は、





「っ……!」

目が覚めたら、また白い天井。
この前にもこんな事があった気がする。

「また、だ」
「シンジ君…?」
「え?あぁあっ!」

横を見るとカヲルが椅子に座って心配そうな顔をしていた。
もしかして目が覚めるのをずっと待っていてくれたのだろうか。

「体は大丈夫?」
「あ、うん…」

少し前にあった事を思い出して気まずくなる。
考えてみると気まずくなってばっかりだ。

「あの…使徒は…?」
「第3新東京市直上からジオフロントに直接攻撃を仕掛けるみたいだよ」

てっきりカヲルが倒してしまったかと思っていたので驚いた。
…なんでも接近戦は危険だとか。

「そうだ、作戦を知らせに来たんだ」
「作戦…?」

作戦といったらやっぱり使徒を殲滅するための作戦だろう。
また、あんな思いをしてまで乗らなくてはならないのか。

「0時丁度作戦開始、君には使徒を倒すために初号機に乗ってほしい」
「……また乗らなきゃいけなのか」
「乗りたくないのかい?」

当たり前だ、あんな怖い思いをして乗りたい訳がない。

「カヲル君は…あんな思いしてないからそうやって言えるんだよ…」

こんな事言いたい訳じゃないのに、口は勝手に言いたくもない言葉を紡ぎ出す。
本当は、言葉のせいにして逃げたいだけなのかも知れない。
いや、逃げたい。

「君が乗らないのなら初号機には僕が乗る」
「えっ…?」
「…60分後にケイジに集合だよ。じゃあ確かに作戦は伝えたから…食事はここに置いておくね」

何故彼が乗らなきゃならない?
どうせ、僕しか乗れないのに。
何故僕じゃなくてはいけない?
僕しか乗れないから?

何故僕は乗らなきゃいけない?
皆が喜んでくれるから?
そう、使徒を倒すと皆が喜んでくれるから。
そうすればここにいる事が出来るから。
それで与えられた場所にいたって、結局は心はカラッポのままだ。
なら乗らなくてもいいんじゃ、ないか。
でも、

「待って…!」

カラッポ、でも心の居場所はまだあるんじゃないか。

「何…?」

心の居場所。
自ら渚カヲル本人を選んだ。
一緒にいたいと。
はじめて会った時から、変な感じがした。
変というか、惹かれるというか。とにかくなんだか懐かしい感覚。
一緒にいると不思議と素直になれる。
気付いたら他の人には話した事もない事を話している。
そして会いたいと願っている。

──嫌いじゃないよ

嫌いじゃないならなんなの?
答えを、聞きたい。
聞くためにも、一緒にいたい。
一緒にいるにはどうすればいい?
簡単だ、ここにいればいい。
エヴァに乗れば、一緒にいられる。

──気がついたら、彼を呼び止めていた。

「僕が…乗るよ……」
「どうして…?嫌なんだろう?」
「それは…」
「なら、逃げてもいいんじゃないかい?」
「え……」

逃げちゃダメだとひたすら言い聞かせていた自分に待ち望んでいた言葉。
誰かに掛けて欲しかった言葉。
彼はいつだって自らが待ち望んだ言葉をかけてくれる。
だけど、今ここで逃げて本当にいいのか?

「君だけに…カヲル君に危険な思いはさせられないよ…」
「……」
「だから、僕が乗る…」

本当は逃げてしまいたいけれど。
怖くて堪らないけれど。

「君を、守りたいから」



───



もうすぐ、作戦開始時刻だ。
嫌でも時間というのは迫って来てしまう。

「これから作戦内容を説明します。0時丁度作戦開始、目標に向かい遠距離射撃で攻撃開始。防御はシンジ君、で抱手は…渚君、お願い出来るわね?」
「……待って下さい」

作戦を淡々と説明するミサトにカヲルが意見をした。

「僕が、防御では駄目でしょうか」
「カヲル君…!?」

予想にしなかった言葉に、シンジは目を見開く。
守るのは自分のハズなのに。
横にいたリツコが当たり前のように反論をする。
そう、されて当たり前。
自分は彼に全てが劣るのだ。

「…シンクロ率や経験共に渚君の方が……」
「…分かったわ」
「ミサト!?」
「…!待ってください!僕は防御で…」
「シンジ君、抱手、お願い出来るわね?」
「………、はい…」

そんなつもりはないのに、断れない自分が悔しい。
悔しさと同時に責任感と罪悪感がのし掛かり、頭の中はぐちゃぐちゃだ。

「いい?一度発射したら次を射つまで20秒かかるわ。その間盾は17秒しかもたない」

つまり、外せない。
自分に射撃者なんて出来るんだろうか。
もし倒す事が出来なかったら、死ぬだけなのに。





責任感と罪悪感とを抱えながら、ごそごそと着替える。
またこれを着るなんて、想像してなかった。

「はぁ…」

一人溜め息をついて天井を見つめていたら、隣でパサリと音がした。
服が、落ちる音。
何故だろう、静けさとその音がいけない事をしているような気分にさせる。
聞こえないように、ごくりと唾を飲み込んだ。

何を考えているんだ自分は。
隣にいるのは男の子で、友達なのに。

「シンジ君…?」
「うぇ?えぇえ、何?」

思わずキョドった声を出してしまった。
大事な時なのにやらしい事を考えていた自分が恥ずかしい。
そんなシンジの事は特に気にしていない様子で、カヲルは言葉を淡々と口にした。

「すまないね、勝手な事をしてしまって…でも君の怯える姿、見ていられなくて…」

怯える、聞くまでもなく恐怖に。
もしかしたら使徒との戦いで死ぬかも知れない、死ななくてもあんな怖い目に会わなくてはならない。
痛くて、苦しくて。

それを気遣ってわざわざ…?

「そんな、僕の方こそ…ごめん」

迷惑かけてしまったな、と罪悪感があるのに内心自分が盾にならなくて良かったと思っている。
守るって言った癖に身勝手だ。

「…死ぬかも知れないね」
「僕は…シンジ君を信じてるから」

信じてる、なんてはじめて言われた。
嬉しいハズなのにシンジは消極的になり、これだけは素直に気持ちが受け取れない。
何で、信じてくれるんだろう。
こんな奴信じなくたって、と自己否定してしまう。

「それに、君は死なないよ」
「え?」
「僕が守るから。君は死んではいけない存在だ、代わりはいない。だけど僕が死んでも代わりはいくらでもいるし誰も泣きはしない」

守ると自分から言った相手に逆に守ると言われてしまうなんて、肝心な時に格好つけられない自分が少し虚しい。
それ以前にカヲルが放った言葉に何故か不安が込み上げてくる。
死んでも代わりがいる?その人以外の代わりなんて、誰もいる訳がないのに。

「僕なんか守らなくたって…いいのに…」

何も出来ない、僕なんて。
呟いた言葉にカヲルは聞こえないふりをして、更衣室を出ていった。



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ミサトさんの台詞とかいろいろうる覚えです(笑)
いいんだ二次創作だから…!←




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