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海よりも深い眠りについて6

「間に合った、かな」

カヲルはポケットからIDカードを出し、機械に通した。
が、開かない。

「あれ…?」

もう一度、通してみる。
硬く閉ざされた扉は開かない。
その変わりに機械にはエラーの文字が表情された。

「か、カヲル君!」

後ろからシンジが息絶え絶えに走って来た。
そんなに慌てなくても、ここにいるのに。

「こ、これ…」

苦しそうに言いながらシンジが差し出して来たのは…

「僕のIDカード?」

紛れもなく渚カヲルと書かれたIDカード。

「もしかしてわざわざ家に来たのは…」
「うん、すっかり忘れてた…」

ありがとう、と言い受け取り機械に通せば今度こそ扉が開く。

「面倒をかけてしまいすまないね…」
「あ、ううん…気にしないで」

その後、無言でひたすら長いジオフロントのエスカレーターに乗る。
カヲルも無言、そしてシンジもまた、無言。
機会音だけがする無機質さに飲み込まれてしまっている。
会話が弾まない、気まずい。

何か話題…

「あの、カヲル君…」
「何?」
「父さんの事…どう思ってるの?」

何故この事を口にしたのか、シンジ自信も理解出来ない。
ただ、聞いておきたかった。
あの光景を見てから、気になって仕方がなかった。

「孤独で…不器用だけど優しくていい人だよ」
「そう…かな」

カヲルの言った事が信じられない。
シンジの知る限りのゲンドウは優しくなんてない、冷酷非道な父親だ。
孤独で不器用なのはまあ認めるけれど。

「それは…違うよ…」
「何故?」
「だって…いっつも仕事の事しか話さないし僕の事もなんとも思ってないみたいで……」
「本当に、そう思う?」
「えっ…?」

だって、そうだから…顔を上げると自然に赤い瞳と目が会う。
何故かその瞳から目をそらせなくなる。
何ひとつ汚れる事がない無垢な瞳。
そして、何か大切な事を訴えてくる。

「お父さんの事、信じてないのかい?」
「当たり前だよ、あんな人…」
「…悲しいね」

悲しみと怒りのようなものが混じった視線を送られ、言葉に詰まる。
何かを伝えようとしている。
自分の父親の本当の姿を、この瞳を見ていれば分かる気がする。
長い時間が立っているような、時間が止まっているような感覚に陥る。
実際そんなに時間は立っていないのだろう。
それだけ、瞳に吸い込まれてしまっているという事だ。

その瞳を見つめ続け、ようやく口を開き何が悲しいの?と聞く前に視線を反らされてしまった。


そんなに僕は不味い事を言ったの…?

肩に手を伸ばし、答えを問おうとした時──

「──!」

ジオフロント内に警報が鳴り響いた。





『シンジ君、渚君、準備はいいわね』
「「はい」」

地上射出される初号機に乗りながらシンジはぼんやりとエヴァに乗る意味を考えていた。

結局、エヴァに乗らなきゃいけないんだ。
迫り来る使徒を初号機で倒さなければならない。
こんな事、本当は嫌なのに。

「目標内部に高エネルギー反応!」
「何ですって…!?」

地上に初号機が出た瞬間、ミサトの声がプラグ内に響く。

『シンジ君逃げて!』

「えっ…?」

シンジが声を上げた時には使徒の攻撃が初号機を直撃し、身体中に激痛が走った。
痛い。
思うのはそれだけ。
それ以外は痛みで何も想い浮かばない、考える気にもなれない。

「うああぁぁぁっ!!」

「戻して!早く!」

周りがガゴンと大きな音を立てて街ごと初号機が地下へと降りていく。
目標がいなくなったのを確認すると同時に使徒は攻撃を中止する。

『シンジ君!』

シンジは激痛と苦しみとで、意識がふと遠くなった。

──だから、嫌だったんだ…





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あきゅろす。
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