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海よりも深い眠りについて5

エヴァに乗る度に感じる、変な感覚。
暖かいような懐かしいような。

『おつかれ様、今日は上がっていいわ』

プラグ内に聞こえる声に反応して、目を開くと異様な光景が目に入った。

「父さん…?」

と、渚カヲル。
楽しそうに話すゲンドウとカヲル、まるで親子のように…
そう、親子のよう。

(何で…)

父さんは僕とはあんな風に話してはくれないのにカヲル君とは話せるの?

カヲル君はいつも誰にでもあんな風に笑顔を向けるの?あの笑顔は、僕の為だけではなかったの?

独占欲と苦しみとで、胸が一杯になった。





「あらシンジ君、丁度いいところに」
「へっ…?」

何事かとミサトの方を振り返ったシンジの手に渡されたのは──

「渚君の新しいIDカードよ。昨日渡し忘れてたみたいで…それがないと本部に入れないから会った時に渡して」
「は、はぁ…」

言うことだけ言って、ミサトは行ってしまった。
要するに、このカードを渡せば良いのか。

「…渡しづらいな……」

あんな光景見た後で、旨く話せるか分からないけど。

家に…いるよね…?

この前来たので家は憶えている。
本部で待っているよりも直接届けに行った方がいいだろう。


──ピンポーン……

「カヲル君…いますか…?」

返事がない、留守だろうか?と思いドアノブに手をやると…

「あっ…」

カチャリと音がして簡単に扉は開いた。
鍵をかけていないらしい。

「お邪魔…します」

ゆっくり歩を進めると、リビングへたどり着く。
辺りを見渡す限り人はいないようで、誰もいない空間にポツリと取り残さされた気分になる。

「いない、のかな…?」

呟いた言葉は無機質な空間に消え、小さく消えてゆく。
何も乗っていないテーブル、誰も座っていない椅子、水が流れる事のないキッチン、風の流れを感じさせない部屋。

誰もいない、誰も。


──会いたい


「シンジ君……?」


後ろから聞こえた声、振り返れば会いたいと強く願った人物。

「カヲル、君」
「……?どう、したんだい?」

名前を呼んだ瞬間、頬へ涙が伝い落ちる。
会えなかったのはほんの少しの時間なのに、それすら寂しくて。

「良かった…」

やっと会えた。

「シンジ君、涙を拭いて…」

差し出されたハンカチを受け取ると、乱暴にハンカチで涙を拭った。
洗って返さないと。

「落ち着いた…?」
「あ、うん…ごめん」
「待って、今お茶か何か……」
「あ、ありがとう…」

目の前に出されたお茶を飲むと、優しい味がした。

「あの、リツコさん…は普段いないの?」
「うん、研究が忙しいらしくて」

それにしても家の鍵くらいは締めればいいのに…と内心シンジは苦笑いする。
不用心にも程がある。

「じゃあご飯とかも一人で…?」
「いや…ご飯はレイと食べてるんだ」
「えっ?」

予想外の答えに少し驚いた。
レイ、つまり綾波レイと食べているんだろう。

「仲いいんだね…」
「ああ、兄妹だからね」
「へっ?」

再び予想外の言葉に驚き、変な声が出た。
そういえば二人とも似てる気がする。
赤い目とか、白い肌とか、人間っぽくないとことか…
だがそれを知って、シンジは内心安心してしまう。

綾波とカヲル君がそんな関係じゃなくて良かった…

正直言って、矛盾しているかも知れない。
兄弟には見えない?と言った笑顔は自分とは違う汚れが一切感じられず、少し悔しくなった。

「あ、もうすぐ召集の時間だ…シンジ君、行かないと」
「え?あ、あぁ!」

時間ギリギリ、所謂ピンチって言うやつだ。
別の事に気をとられててすっかり忘れてた。


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あきゅろす。
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