君と離れる
ネルフの廊下は白くて長い。
誰も通らないとそれは酷く寂しい孤独感に襲われる。
僕は今日も一人、その白くて長い廊下を歩く。
「あっ…」
「!……」
歩いていると目の前にはカヲル君がいた。
嬉しさからか、自然に声が上がる。
嬉しいけれど、内側に沸き上がる独占欲と後ろめたさ。
「カヲルく、」
「……」
何も言わない、言ってくれない。
カヲル君はただ下を見つめて僕の横を通り過ぎて行く。
「待って…!」
気付いた時には僕はカヲル君の腕を掴んでいた。
白くて細い、少し力を入れたら折れてしまいそう。
「放してっ…」
「カヲル君」
「放してッッ!」
いままで聞いた事がない位の大声が無音の廊下に響く。
カヲル君は酷く哀しそうで辛そうな顔をしている。
でも僕は、
「カヲル君、僕はッッ!」
嫌いなんかじゃないよ本当は──そう言おうとした瞬間、後ろから誰かに引っ張られた。
「──っ!」
見返すとそこには綾波の顔があって──
パンッ──
「いっ…!」
頬を、打たれた。
打たれた反動で廊下に倒れてしまう自分が情けない。
女の子に打たれるなんてアスカ以来、かな。
「貴方、何もわかってない。人の心をぐちゃぐちゃにするのはよくない」
僕を真っ直ぐに見る綾波の紅い瞳が、まるでカヲル君にそう言われたかの用な錯覚にとらわれる。
君、何もわかってないよ
カヲル君は、そんな事言わない、言うはずない!
わかっているのに頭の中にはフラッシュバック!
嫌だ嫌だ嫌だ、僕のカヲル君はこんなんじゃない!
「フィフスの心の傷は、これくらいの痛みじゃないのよ」
僕を見下す紅い瞳、カヲル君は僕の事を見下したりしない、カヲル君は──
今さらすぎる依存症、何かにすがるようにカヲル君の方を見ると、哀れむ用な目で僕を見ていた。
「あ、」
突き放される──一気に距離が離れた気がした。
君と離れる
(離れないとわからない大切な物は、気付く事が遅すぎて)
(気づいたらこんなにも距離が離れていたよ!)
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