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海よりも深い眠りについて3

バキッ……


「うっ、うわぁっ!」
「すまんなぁ、転校生。わしはお前を殴らなあかん。殴っとかな気が済まへんのや」

シンジはクラスメイトに体育館裏へ呼び出されたかと思うといきなり顔を殴られた。

「悪いね、この間の騒ぎでアイツの妹さん、怪我しちゃってさ。…ま、そういうことだから」

シンジを殴った生徒の妹が怪我をしたから殴られたらしい。

「僕だって、乗りたくて乗ってるわけじゃないのに…」
「…」

ボソッと呟くとシンジはもう一発頬を殴られた。
二人の生徒は地面に大の字で倒れたシンジを置いて何処かへ言ってしまった。
多分帰ったのだろう。

シンジは起き上がる事なく空をただ眺めていた。
何もない、青色に時々小さな雲が流れてくる。
人間全員の心がまっさらなあおいろだったら良かったのに。
しばらくすると誰かが歩いて来る音がした。

(渚、カヲル…)

足音の主はカヲル。
カヲルはポケットに手を入れたままシンジの横に立ち覗き込む。

「召集、先に行くよ」
「あ、うん…」

それだけ告げるとカヲルは向きを変えて去って行った。
わざわざ探しに来てくれたのだろうか?

──召集、そういえばあったな。

ぼんやりと空を眺めながら他人事の用に考えた後ムクリと起き上がりカヲルの後ろ姿を見る。
振り返る事はないカヲルの後ろ姿にシンジは少々寂しさを覚えた。

「二人共、準備は良いわね」
「「はいっ」」

ミサトはエヴァに乗ったシンジとカヲルに呼び掛けた。
二人はネルフに到着すると同時に襲来した使徒を殲滅するためにエヴァに乗せられたのだった。


エヴァ両機がリフトアップされると使徒もそれに気付いた用で、初号機の方へ向かって来る。

「大丈夫…出来る…」

シンジは自分にそう暗示をかけると、向かって来る使徒にライフルを向けて引き金を引く。

「このっ…!」

しかし使徒に倒れる様子はない。
銃弾は土煙を起こすだけで、全てATフィールドに弾かれてしまったようだ。

「駄目だ…効いてない」
「そんな…じゃあどうすれば」
「僕がATフィールドを中和する」
「わかっ…うわっ…!」


その時、使徒のムチが初号機に伸び、足を掴んだ。
初号機は使徒に振り回された後、空中へと投げ出される。
投げられた初号機はドォン、という派手な音と共に山肌へ沈んでいった。

『シンジ君、大丈夫?!』
「っ…」

身体中に痛みが走る。
シンジは立ち上がろうとレバーに手を伸ばす。
ふと横を見ると、初号機の指の間で震える二人の男子生徒が見えた。

「あ…!」

今日、自分を殴った奴とその友達、すぐに顔でわかった。
出来れば見たくなかった、なんて悠長な事を言っている場合じゃない。

『シンジ君のクラスメイト…!』
『何故こんなところに…!』

一方のシンジは動くのをためらっていた。
今動いたら二人を潰してしまいそうで、怖かった。
その間にも使徒は待ってはくれず、倒れている初号機へと向かって来る。
使徒がムチを振り上げた。

──やられる

シンジは目を瞑り、すぐに走るであろう痛みに耐えれるように歯を食い縛った。

「…あれ……」

伝わって来るハズの痛みがない。

「…!」

シンジの目の前で、否、初号機の目の前で、四号機が使徒のムチを掴み、攻撃を防いでいた。

「渚君ッ…!」
「く…っ」

カヲルの手に、焼ける用な痛みが走り、思わず顔をしかめる。

外ではトウジが「何で戦わへんのや!」と叫んでいる。

「僕らを巻き込まない為…?」
「わいらがここに居るからか…?」

『カヲル君、今は使徒を倒す事だけを優先的に考えて』
「わかってます…!」

分かっているが、ここで戦えば民間人であるトウジやケンスケを巻き込んでしまう事を心配し、カヲルは身動きをとろうとしない。

『じゃあ…!』
『…初号機の電源を切ってエントリープラグ排出、中にあの二人を乗せて』

叫ぶ用に声を上げたリツコの横でミサトは冷静に判断を下した。
普段のミサトの声とは違い、真剣な、凛とした強さのある声にリツコが反論する。

『ミサト…!そんな事許されないわ、許可も降りてないのよ!?』
『私が許可します』


シュウン、という音と共に初号機の電源が落ち、エントリープラグが排出される。
一瞬暗くなるこの感じ、シンジはあまり好きではない。

『そこの二人、入って!』

初号機から聞こえるミサトの声に従い、トウジとケンスケはエントリープラグへ乗り込む。

『カヲル君!』

二人が乗り込んだと同時に四号機の内部にミサトのかん高い声が響き渡った。

「このぉっ…!」

その声とほぼ同時に、四号機は使徒を勢い良く投げ飛ばす。
投げ飛ばした使徒のコアにプログナイフを突き刺した。



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