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海よりも深い眠りについて1
それは、深い海。
ずっとずっと深い海。
暗くて、静かで、赤くて、見えるのは一筋の太陽の光。
生命の光、僕が待ち望んでいた光。

『碇くん』

誰かの声、聞いた事がある。

『シンジくん』

ああ、この声は──
カヲ──

『貴方は何を望むの』

──僕は



「…!」

夢の続きで、目が覚める。
目が覚めるとシンジは病院のベッドの上にいた。

「また…あの夢だ…」

誰もいない一人の時に見る夢。
それは悪夢とは程遠く、限りなく現実に近い夢。
夢の中の人物に呼び掛けた名前…何と言ったか。
思い出せそうで思い出せない、掴んだらすぐに離れて行く曖昧な記憶。

シンジは重い体を起こす。
病室から廊下へ出ると、廊下の窓から外をぼんやりと眺めはじめる。
外ではクレーンが初号機と呼ばれた機体の頭を持ち上げたり、ヘルメットを被った作業員が忙しなく動き回っている。

(あれは…何だったんだろう…)

昨日あった事を思い出したシンジはその恐怖に密かに身震いをする。
あれは…使徒とか言ったか。
いきなりその使徒と戦えと言われて、初号機に乗せられて。

「父さんは…このために僕を呼んだのかな…」

青みがかった瞳がうつむきがちに床を見つめる。
うなだれながらシンジは病室に戻ろうとドアを開けようとすると、廊下の向こうから何かが走って来る音がする。
シンジが音に気付き振り向く、すると走って来た誰かと勢いよくぶつかった。

「っ…!」
「痛ッ…」

顔をあげると、床には林檎が転がっている。
誰かのお見舞いだろうか?
シンジが相手の顔を見れば、目を見開いて大げさな態度をとる。

「っ…」
「あっ、と…ごめん…」

銀髪、特徴的な赤い瞳に白い肌の少年。
この人──見た事ある、会った事がある。
手を差しのべられたシンジはその手に掴まり、ゆっくりと立ち上がる。

「じゃあ、僕はこれで…」

少年は床に転がっている林檎をせっせと拾い集め、隣の病室に入って行った。
確か隣は綾波レイの病室だったか。

「…(あの人は…)」

確かにどこかで会った事がある。
記憶に刻まれている。
あの赤い瞳、誰かに似ている。
会った事があるハズなのに、知らない。
思い出せない──



「レイ」

少年はベッドの上にいるレイに優しく語りかける。
ふんわりとした微笑みが、好印象を与える。

「…カヲル」

それに気付いたレイは少年の名前を呼び、目を細めながら小さく笑う。
カヲルの腕の中の赤い実に気付いたのか、「林檎…」と呟いて物欲しそうに赤い実を見つめた。

「近くのスーパーで買って来たんだ」

カヲルは両手いっぱいの林檎をベッドの横の机の上に置き、近くの椅子に腰掛る。
ポケットから折りたたみ式のナイフを取り出すと、林檎をひとつ手に取り林檎に刃物を入れる。

「到着は2日後ではなかったの」
「予定より早く着いたんだ」
「アメリカはどうだったの」
「楽しかったよ」
「そう」
「出来たよ」

カヲルはウサギ形の林檎をレイの口へと運ぶ。
その林檎をしゃり、と音を立ててレイは美味しそうに食べる。

「サードチルドレンが来たの」
「へぇ…」
「でもきっと貴方と四号機には足元にも及ばないわよ」
「そう、だね」

カヲルは先程の少年…シンジを思い浮かべながら、自分もまた林檎を口に入れた。



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