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カヲル君誕生日
「ちょっと、ついて来ないでよ!」
「そっちこそ!」

夜中の12時を過ぎたころ、アスカとシンジはネルフのパイロット宿舎の同じ道を喧嘩しながら歩いていた。
もしネルフ内ではなく住宅街だったら確実に近所迷惑だ。
アスカが角を曲がるとシンジも同じ角を曲がり、シンジが道をまっすぐ歩くとアスカも同じ道をまっすぐ歩く、それの繰り返しだった。
その二人の動作はまるでユニゾンのよう。
そして二人は同じドアの前で止まった。

「アスカがここに何の用なんだよ…あっち行ってよ」
「その台詞、そのままお返しするわ」

二人の回りにはピリピリとした雰囲気が漂い、きっと使徒も近づけないぐらい険悪な空気が流れている。
ドンドン、ドアを叩く様子までユニゾンしている。

「フィフス、いるんでしょ!?」
「カヲル君、いるんだろ!?」

呼ぶ人物の名前まで同じだ。
しばらくしてシュイン、という機械音がし、ドアが開く。
ドアの向こう側から非常に迷惑そうな、ネルフ宿舎住人の渚カヲルが出てきた。

「はぁ…二人共そんなに騒がなくてもわかっているよ」
「フィフス!」
「カヲル君!」

二人はカヲルを見た瞬間にぱぁっ、と明るく笑顔を作った。
そんな二人を見て、寝起きのカヲルは少々呆れる。
というか迷惑だ、時計見ろ時計。

「…で、何しに来たんだい?」
「あ、あの…カヲルく…」
「フィフス…誕生日おめでとう!」
「あぁっ、僕が一番に言うハズだったのに!」
「誕生日…僕の?」
「あんた今日が誕生日だって嬉しそうに言ってたでしょ?だからわざわざ一番におめでとうを言いに来てやったのよ」

アスカに言われてようやく今日が誕生日だという事をカヲルは思い出したようで、驚いた顔をした。
嬉しいのは嬉しいんだが…眠い。
カヲルはさっさと用件を終わらせて夢の中へ帰りたい気持ちでいっぱいだ。

「君の事だから忘れてると思っていたよ。ちょっとセカンドを誤解していたみたいだね」
「あんたが私をどう思ってたが凄く気になるわ…」
「それよりカヲル君、僕ケーキ作って来たんだ!」

アスカとカヲルの話を打ち切るようにシンジが割り込む。
しかもケーキを作って来たとはなんて準備が良いのだろうか。

「あ、そう…」

しかしカヲルは猛烈に眠いため、あいづちをうつぐらいの動作しかできない。
だから早く寝かせてくれ、と今にも怒鳴り出しそうな顔をしている。

「って事で一緒に食べようね」

シンジはずかずかとカヲルの部屋に上がり込んでくる。
礼儀というものを知らないのか、この少年は。

「待ちなさいバカシンジ!人の部屋に勝手に入るんじゃないわよ!」

その後からアスカも続いて部屋に上がり込む。
言ってる事はあってるが行動としてはどうなんだろうか…?
その二人を見てカヲルはポツリと呟くように言葉を発した

「二人共…今日は帰…」
「カヲル君、ケーキ切ったよ!」
「じゃ、一番大きいこれが私ので小さいのがシンジのね」
「一番大きいのはカヲル君用だよ!」

二人はさっぱり聞いてなかった。
確かに誕生日を祝ってもらうのは嬉しいが人の体調も考えてほしい。
二人がもめてる中でカヲルはベッドに入り再び寝ようとした。

「カヲル君?」
「あんたが五月蝿いから呆れて寝ちゃったのよ」
「何でだよ!」
「良いからさっさと起こしなさい!」
「わかったよ…カヲルくーん!」
「ぐっ…!」

カヲルの上にシンジは思いっきり飛び込んだ。
いきなりだったからか、カヲルは色気のない声で呻いた。
ついでに重い。
いくらシンジが少年…だからと言っても体重だってそこそこある。

「カヲル君ー」
「…」

重くて払い除けたいのを我慢し、寝たふりを続行する。

「カヲル君…?」
「バカヲル寝ちゃったのかしら?」
「…」

シンジは寝たふりのカヲルに良いことを思いついたのかニヤリと笑みを浮かべた。
悪い意味で気持ち悪い。
シンジはカヲルの耳にフゥ、と息を吹き掛ける。
すると、何かに反応するようにカヲルが声を上げる。

「ぁ…っ!」
「おはようカヲル君っ!」
「フィフスやっと起きたわね、今夜は寝させないわよ!」
「…わかった、降参だよ」

カヲルはニヤニヤしている二人についに折れた。

「ケーキ早く食べましょ!ほら、あーん」
「あ、あーん…」
「じゃあ僕からも、はい」
「う、うん…」

―数時間後

パーティーは本人の意思とは反対にまだ続いていた。
終わるどころか、人がドンドン集まり、数時間前よりさらに盛り上がっていた。

「さぁ、飲むわよー!」
「ちょっと、朝っぱらから飲むのやめなさいよ!」
「ケーキ買って来たでー」
「甘いな」
「ああ」
「加持くぅーん」
「葛城、今日の主役はあっちだ」
「無様ね」
「パターン白、ケーキです!」
「肉、嫌いだから…」
「ハリセンチョップ!」
「ぐほぉぁ、何すんねん!」
「ふんふんふんふん、ジャーン!」
「不潔…!」
「ケーキをチョコレートに切り替えろ」
「良いのか碇、委員会が五月蝿いぞ?」
「構わん」

「……」
「カヲル君、こんなに祝ってもらって嬉しくないの?」
「嬉しいよ、嬉しいけど…」
「けど…?」
「眠いんだ」

「アスカ、歌います〜!」
「ふん〜ふんふんふん、ジャーン!」
「ミサト飲みすぎよ、何本飲んだと思ってるの?」
「多分ビールは10本目だと思うから」


「今日眠れそうにないね…」

カヲルは肩を落として軽くため息をついた。
…皆さんはこんな有難迷惑な事をしないように。



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