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存在価値
「カヲル君は僕のどこが好きなの?」

カヲル君に前にも聞いたかも知れない質問をいきなり振りかける。
きっとそう言った僕の目は酷く虚ろだったと思う。

「そうだね…全部、かな」

すると君は毎回のようにそう言って小さく笑う。
別に疑って聞いてる訳じゃないんだけど、どうしても聞きたくなる時がある。
例えば今みたいにカヲル君の部屋に二人っきりでいるとき。
本当にずっと僕と一緒に居てくれるのか、僕の事をどう思っているか時々不安になる。
だってカヲル君は僕が離れるとすぐにどこか遠い所に行ってしまいそうで怖い。

「じゃあシンジ君は僕のどこが好きなんだい?」

今度はカヲル君が問い返してきた。
そんなの決まってるじゃないか。

「勿論、全部だよ」

だってカヲル君の嫌いな所なんかない。
だから全部好き。
恋は盲目、とか言うケド僕はカヲル君の全てが好きだから。

「シンジ君はいつもそう言うよね」
「カヲル君だって」


確かに僕も毎回カヲル君の全部が好きだって言ってるかも知れない。
だって本当に全部好きだから。
僕はベッドに座っているカヲル君の胸に抱きつく。
カヲル君のいい匂いだ。

「どうしたんだい?」
「何でもないよ、ただなんとなく」

別に理由なんかないけど、カヲル君とこうやっているのが好き。
ずっと抱きついていると、カヲル君が僕の背中に手を回して抱き返してくれる。
なんだか凄くあったかくて、このまま寝てしまいたい気分になる。

「カヲル君はずっと僕と一緒にいてくれるよね?」
「随分といきなりな質問だね?」

いきなりだけど聞いておきたかった。
勿論、理由なんてない。
ただ、ずっと一緒にいて欲しいだけ。

「……」
「一緒にいてくれるよね?」

答えてくれないカヲル君に少し怖くなり、カヲル君をギュッとより強く抱きしめる。
でも、どんなに強く抱きしめても恐怖感は減らなくて。

「シンジ君、痛いよ」
「あ…ごめん」

力が強すぎたのか、カヲル君のが苦しそうな顔で訴える。
でもこうでもしないと怖くて怖くて。
本当は君を抱きしめるのに二本の腕じゃたりないくらいなのに。

「…何が怖いんだい」
「え?」

カヲル君はそんな僕に気付いたのか、優しく慰めてくれる。
まるで心が全部読まれてたみたいだ。

「カヲル君がいなくなるのが怖いんだ。また一人になるのが嫌なんだ…」
「でもいずれ僕は君の前からいなくなってしまう」
「何で?そんな事ないよ。僕はこんなにカヲル君の事好きなのに…いなくなって欲しくない」

何でカヲル君がいなくならなきゃいけないの?
いなくなるならミサトさんでも父さんでもリツコさんでも誰でも良いじゃないか。

「僕はシンジ君とは違うんだ。本当ならこの世界に存在すべきじゃないんだ」
「存在しちゃいけない訳ないじゃないか!誰だってそんな風に産まれてくる訳じゃないよ!」
「僕はそうなんだ」
「何で?だったら僕がいなくなった方が良いよ…カヲル君は…存在すべきだよ…」
「でもね、僕の存在価値は無に等しいんだ。元々シナリオにそって作られただけの存在でしかない」
「何で…何で?」

何でそんな事言うの?
存在価値なんて誰が決める訳でもない。
いや、決めちゃいけないんだ。
それなのに、カヲル君は何が面白くてそんな事言うの?
シナリオって何?
気付いたら僕は、カヲル君の首を思いっきり締めていた。

「シ…ンジく…、落ち……着い…て……」
「嫌だ!僕とずっと一緒にいてくれるって約束してよ!どこにも行かないでよ!僕は君がいないと…」

僕は、何をやっているんだろう。
このままじゃカヲル君が死んじゃう、そうしたらまた僕は独りぼっちになってしまう。
怖くなって、手を離すと苦しそうにカヲル君が咳き込んだ。

…でも、カヲル君がいなくなるなんて言うのがいけないんだ。
そうしたら僕がどんなに悲しむかカヲル君は解ってるハズなのに。僕はカヲル君がいないと生きていけない。
それくらい、君に依存してしまっているんだ。
今さら君がいなくなったら…

「シンジ…君…?」
「カヲル君」

息を整えるため、大きく息を吸って肩を揺らしているカヲル君の耳元で、自分でも驚くくらいの声質で囁いた。

「いなくなるとか絶対に言わないでね?」




存在価値



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