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人の喧騒。
子供の楽しそうな声、お母さんが戒める声、お父さんがなだめる声。
きっと子供は、こうやっていろんなことを教えられて生きていくんだ。
自分もまだ、子供なのに。

「なにボーッとしてんのよ」
「えっ、あ、ごめん」
「せっかく使徒をやっつけた打ち上げもかねてるんだから、シャキッとしなさいよ」
「ああ、うん…」

彼女もまた、そうだったのだろうか。

「シンジくん、疲れたかい?」
「ん、少し…」
「だらしないわねぇ」
「じゃあ、二人共そこのベンチでくつろいでいなよ、僕、何か飲み物を買ってくるよ」
「えっ、悪いよ…」
「人の好意は素直に受け取りなさいよ。あ、私サイダーね」
「わかったよ、シンジくんは?」
「えっ…」

ふわり、優しげな微笑みが向けられる。
彼も、そうだった?

「僕は…なんでもいいよ」
「そうかい?じゃあいってくるよ」

ゆったりと自販機を探して歩いていったカヲルを見送ると寂しい気持ちに教われた。
お母さんに手を引かれて友達と別れる時、こんな気持ちだったんだろうか。
思い返してふと気付く。
そうか、母さん、死んじゃったんだった。
友達も、いなかったんだっけ。
苦い記憶ばかりが溢れてきて、胸が痛みで圧迫される。

「なんちゅー顔してんのよあんたは」
「…別に」
「あんたはいつもの、ふぬけた顔が似合うわよ」

ぶっきらぼうに飛ばされた台詞と裏腹にアスカの表情は思ったより柔らかかった。
なんだか、普段と違う。

「……なんだよ、それ」
「…なんでふて腐れるのよ!慰めてあげてるんでしょ!?」
「えっ、ごめん…」
「ごめんじゃない!そういう時は、ありがとう!」
「え…」
「ありがとう、よ。いちいち謝ってんじゃないわよ」
「あ、ありがとう…」
「よろしい」

きっと彼女なりの優しさだったんだ。
言葉はぶっきらぼうだけれども。
前にカヲルが言っていたことが、少しだけわかった気がする。
自分と同じで、不器用なのだ。
人と接するのが苦手で、接するのが怖い。
だからつい刺を出してしまって、本音とは違うキツい自分ばかり出てしまう。
そう、同じなのだ。
人間は自分の嫌いな部分に似ている人間を嫌悪すると聞いたことがある。
不思議と、アスカが苦手だなと思わなくなっていた。

(僕は、少し自分を好きになれたのかな)
(なんだろう、今なら、アスカを少し好きになれそうな気がする)

たくさんの人と関わることができる自分を、多くの人を、カヲルを。
手を引かれる子供の姿を見た。
お母さんが優しい笑顔で語りかけている。
きっとあの子だって成長して、辛い現実を知ることになる。
けれど、たくさんの時を過ごして、たくさんの人を知って、誰かを好きになって。
あの子も、そういう喜びを知っていくんだ。
心がぽかぽかして、シンジはいつの間にか微笑みを浮かべていた。

「なにニヤニヤしてんのよ、気持ち悪い」
「き、気持ち悪いってなんだよ!」
「素直に述べただけよ、馬鹿シンジ」
「な、馬鹿ってなんだ!」

いつの間にか元通り、いつものように口喧嘩を始めていた。
デパートの中の人目を一斉に浴びている。
だが二人はそんなことには気付かずにやっぱりいつも通り、口喧嘩をしている。
カヲルが戻ってきたこれには立ち止まった通行人が集まって、なんだか見世物みたいになっていた。

「あれっ、二人共、もう仲良しになったのかい?」

「「なってない!」」




(前言撤回、やっぱり嫌いだ!)




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