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スリーマンセル!

天気が晴れだと、どことなく気持ちがいい気分になる。
雲なんかよりも軽やかで、柔らかい。
好きな相手が隣にいればもっといい気分。
甘くしなやかで、心が歓喜の歌を歌う。
…ハズだった。
天気がいいはずなのに室内で宅デートなんて誰が考えたのだろう。
ことの発端は「シンジくんのおうちに行きたいな」というカヲルの突然の発言だった。
宅デートだ!と盛り上がったシンジはあることをすっかり忘れてカヲルを家に呼んでしまったのだ。
そう、最大のライバル、アスカである。
アスカもシンジ同様カヲルに惹かれており、
毎回毎回カヲルのことで喧嘩をしては周囲に飽きれ顔で「またか…」という目で見られるのだ。
今日はその当の本人が家に来る。
カヲルが家にくる、と知ってアスカが出かけるわけがない。
家なのにお洒落をしてリビングに居座っている。
随分気合が入っているようで。
カヲルが訪ねてくるまでの間、シンジとアスカは二人っきりである。
…気まずい。

「アスカ、出かけたら?」
「何であんたに言われなきゃなんないのよ、いつ出かけようと人の勝手でしょ」
「そりゃそうだけど…」
「あんたこそ部屋にいたら?フィフスなら私が出迎えてあげるから」

なんて強気。
本来約束をしたのはシンジであるはずなのに。
頬が引きつる。
朝いちばん、起きたときは非常にさわやかな気分だったというのに。
水と油とはよく言うもので、ここまで不快な気持ちにさせるとはお互い凄いものだ。
ピンポン、チャイムが鳴る。
きた、カヲルだ!
競うように二人でどたばたと廊下を走る。
どっちが開けてもカヲルがいることに変わりはないのに。
ペンペンがおかしそうな顔で二人を玄関へ見送る。
それからあくびをして、冷蔵庫に引きこもった。
ドアの前で、どちらが開けるかまた揉める。
結局二人して喧嘩になったんで、一緒に開けることにした。
横に恋敵がいるが、なにもなかったように笑顔で扉を開ける。

「「カヲ…」」
「たっだいまー!!いやぁ鍵家に忘れちゃってー」

…チャイムの正体はミサトだった。
酒臭い。
朝方まで飲んでいたとでもいうのか。
べろんべろんで自分の部屋に歩いていき、そのまま寝てしまった。
ジャケッからちゃりん、という音で鍵が落ちる。
…持っているではないか。
今のところ酔っぱらっているのでなにも言わないでおく。
さて、気を取り直してカヲルを待つ。
時間的にはとっくの昔についてもいいはずだが。

「…遅い」
「僕、迎えにいってくるよ…」
「あんたそうやって抜け駆けしようって言うのね!」

本当はそうなのだがそうです、とは言えない。
一応カヲルの携帯に電話をかけておく。
…でない。
ここだけの話、彼は機械が苦手のようだ。
携帯電話のメールを打つだけで「どうすればいいんだい?」なんて言っていたのを思い出す。
家にしっかり鍵をかけて、仕方なくアスカとカヲルを探しにいく。
鍵をかけてしっかり施錠、鍵はポケットへ。
ミサトのようなへまはしたくない。
エレベータで降りて、マンションの外に出たところで電話が鳴る。
この着信はカヲルだ。
一応自分で電話は掛けられたらしい。
受話器を上げると、のほんとした声が聞こえる。

『やあ、シンジくん。今電話しなかったかい?間違えて切ってしまって…』
「あ、切っちゃったんだね、仕方ないよ。あのね、遅いから迎えに行こうと思って…」
「フィフス?あんた変わりなさい!」
「やだよ!ちょっと、痛いってアスカ!」
「いいから変わんなさい!」
『どうしたんだい?シンジくん?』
「ああっ、なんでもない!なんでもないよ!!」

居場所を聞き出して、電話を切る。
やはり迷子になっていたらしい。
その場から動かないでね、とだけ伝えておいた。
電話を渡さなかったことによりアスカは不機嫌だ。
そんなに不機嫌になるなら自分から電話をしたらどうだ。
もっとも、機械音痴の彼が受話器を上げずに間違えて切ってしまうかもしれないが。
カヲルがいるらしい場所に向かうと、ベンチに座って日向ぼっこをしているカヲルを発見。
ジジイか、あんたは。
いつものようにヘタな歌を口ずさみながら太陽の光を浴びている。
そのまま根っこが生えて光合成でもしだしたらどうするのだろう。
近くで猫があくびをした。

「カヲルくん!」
「フィフス!!」

二人で声を揃える。
ハモったような、ハモらなかったような。

「やあシンジくん…それと、セカンド?」

アスカの姿を見て不思議そうなカヲル…とカヲルを見て上機嫌なアスカ。
なんてころころ変わる機嫌だ、山の天気のようだ。
シンジよりも先にカヲルに駆け寄り、可愛らしい笑顔を振りまく。
女って怖い。
好きな人の前ではぶりっ子、なんてよく言ったものだ。
しかしアスカは非常に美少女なので、猫被っていればとても愛らしい。
猫を被っていれば、だが。
文句の一つでもたれてやりたいが、シンジは大人なので心の奥にぐっとしまう。(カヲルの前でだけ)
さて、本来シンジとカヲルのデートであったはずなのだが、どうしたものか。

「もう、迷子になってるなら私の携帯に電話しなさいよ!」
「ごめんごめん」
「そんなことよりカヲルくん」
「何がそんなことよ!」
「今ミサトさんが家に帰って来ちゃったんだけど大丈夫?」
「僕は問題ないよ」
「そうよね、シンジのことは放っておいて早くいきましょ!」

アスカが先陣きって歩きだす。
カヲルをデートに誘ったのはシンジなのに、まるでアスカとカヲルがデートをしているような。
気に食わない。
後から出てきて人のものを取ってしまうなんて!
まるでジャイアンか何かのようだ。
今すぐドラ○もんを呼びたいところだが、自分はの○太のような腰抜けでもなければ間抜けでもない。
取られたものは自分から奪い返すまで。
アスカはカヲルの右腕をがっしり掴んでいる。
こうなりゃやけだ。
シンジも負けじとカヲルの左腕をホールドする。
折れそうな腕だ、守りたい、その腕。
腕じゃない、本人を守れと突っ込む者はこの場にいない。
カヲルの腕をつかんだシンジに、気に食わなそうにアスカが喧嘩を吹っ掛ける。
強気な彼女が恨めしい。

「ちょっと、気安く触らないで!」
「なんだよ、それはアスカじゃなくてカヲルくんが決めることだろ」
「もう、嫌っていいなさいよカヲル!」
「え?別に嫌ではないけれど…」

きょとん、と返答するカヲルは自分が取り合いされていることに全く気付いていない。
寧ろ楽しそうだ。
この能天気、いっそ尊敬ものである。

「僕は三人でいるの、楽しいな」
「…カヲルくん」
「…そ、そうよね!」

カヲルが立った一言で喧嘩を鎮静化する。
初来は有望なファイアーマンだろうか。
シンジもアスカも簡単に彼のペースに乗せられてしまう。
二人の扱いをわかっているのかわかってないのか。
相変わらずカヲルはニコニコ笑って状況を楽しんでいるだけだ。

「三人も悪くないわよね!」
「う、うん!」
「ふふ…」

妙な間を開けてからシンジとアスカが笑いだす。
多分カヲルは三人でいることを本当に楽しんでいるのだろう。
ここはカヲルに合わせて、何もなかったことにしよう。
二人共「後で見てろ」といった感じでお互いを睨み、また三人で歩き出した。
今日はどんなデートになるだろうか。


スリーマンセル!



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