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早く明日になってしまえ!
そういえばこの時期になると妙に女子が色めき立つよなぁ、とカレンダーを見る。
アスカが着けたのか、赤い油性マジックのハートが14日を囲んでいた。
加持さんにでも渡すんだろう。
彼女に手作りチョコなんて作れるのか?と一瞬心配になるも、他人事なのでどうでもいいとばかりにカレンダーから目を反らす。
テレビでもその話ばかりだ。
このお店のチョコが美味い、手作り簡単美味しいチョコ菓子レシピ、耳に入る単語はチョコ、チョコ、チョコ。
みんなバレンタインの元を知っているんだろうか。
日本ではなんでもかんでも改変するのが好きだ。

(…バレンタインか)

本来は女性から男性へ好意を示すためにチョコを渡す訳だが、男が男に、というのはありなんだろうか?
ネットでの噂ではホモチョコと言うらしい。
馬鹿にしたかのようなネーミングがイラッとくる。

(チョコ、作ろうかなぁ……)

シンジがキッチンをチラ見すると、アスカが悪戦苦闘していた。
まるで使徒と戦ってる時のようだ。
そこまで必死にならなくても。
後ろでペンペンが近寄りがたそうにしている、冷蔵庫を開けたいのだろう。

「アスカ、チョコを作ってるの?」
「そうよもう、煩いわね!話かけないで!」

まるで八つ当たりだ。
このままでは買い置きしてあったチョコは全てなくなりそうだ。
財布を手に取り、玄関へ向かう。
話しかけると怒られるので、話しかけずに家を出る。
なぜこんなに気を使って外出しなければいけないのか。
スーパーへ向えば、バレンタインフェア!とでかでか書かれた看板のあるコーナーに山盛りのチョコが置いてあった。
幼児向けのものから高級そうな一品まで、様々だ。
手作りチョコのコーナーにはご丁寧に板チョコとレシピ本が並べてある。

「チョコって色んな種類があるんだな…」

レシピ本をぺらぺらめくる。
シンジは自分でも自覚はあるが料理は出来る方だ。
こういうレシピを見ていると、なんだか作ってみたくなってくる。
作ってカヲルくんにあげたら喜ぶかな?レシピを見ながらにやりと物思いにふける。

「あれ、シンジくん?」
「えっ…カヲルくん?」

意外な場所で意外な人物に会った。
真っ赤な瞳が驚いたようにシンジを見つめる。
瞳の向こうに、間抜けな顔をしている自分が映って少し恥ずかしい。

「こんな所でどうしたんだい?」
「え、いや…カヲルくんこそ」
「僕かい?」

ほら、と言って籠の中を見せられる。
レシピ本と、大量の板チョコが籠に投げ込まれていた。

「チョコ…」
「うん、作ろうと思って」

(……誰に作るんだろう)

こんなに沢山、いったい誰にあげるんだろう、貰った相手がさぞ羨ましい(殴ってやりたい)
自分は目の前にいる相手にチョコを作ろうとしているのに、もやもやが止まらない。
目の前のカヲルはどんな顔で、どんな風にチョコを渡すんだろう。

「シンジくんは甘すぎない方が好きだよね?」
「あ、うん…どうして?」
「ふふ、君にチョコを作ろうと思って…」
「へぇ……ええ!?」

驚きすぎてすっとんきょうな声が出る。
おまけに変なポーズ。
周りのお客の目が痛い。
それでも驚かずにはいられない。
大好きな大好きなカヲルがチョコを作ってくれるというのだ、喜ばずにはいられない。

「本当に、本当に僕にくれるの!?」
「嫌かい…?」
「ううん、すごく嬉しいよ…ありがとうカヲルくん!」

まだバレンタイン前日なのに、すっかり貰った気になっている。
頬のにやにやが止まらない、多分物凄くみっともない顔をしているのだろう。

「あのね、僕もカヲルくんにチョコをあげようと思って」
「本当かい?じゃあ、両想いだね」

両想い、甘い響き。
カヲルの声で、それが脳内に反響する。
きっと今、自分は世界で最高に幸せに違いない!チョコを買いに来てよかった、と浮かれた気分でチョコをひたすら籠に入れる。

「あまり上手く出来ないと思うけど…楽しみにしていてね」
「いいんだよ、カヲルくんの気持ちが大切なんだから」

二人で笑い合いながら、チョコだらけの籠をレジにもっていった。
このチョコはいずれ溶かされて、愛の形となるのだ。
たまにはこんなバレンタインもいいかも知れない、翌日どんな日になるのか、わくわくしながら鼻歌を歌った。




早く明日になってしまえ!



(幸せは幸せだと感じなきゃ幸せじゃない!)
(きっと今僕は、最高に幸せな人間の一人だ)
(早く明日になぁれ!)



あきゅろす。
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