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やさしくされると、なぜか(甲斐)

昔の日本て面白かったんだなぁと、改めて叔父の祖国の良さを理解したのに、この仕打ちは一体何だ。憐れみの混じった悲しみに染まった幸村の眼差しと、笑った方がいいのか同情した方がいいのか、何とも云えない表情で見つめてくる佐助。お館様の何とかという城(難しい漢字で読めませんし忘れた)の一室。客人として招き入れられた蘇方に与えられたその部屋で、見事な日本庭園を右にシャーリィは襲い来る頭痛と戦っていた。あれ?可笑しくない?

「そりゃあ、隠したくもなるよね」

「しゃーりぃ殿!某と佐助はそなたの過去にどんな過ちがあろうとも、蔑んだりはせぬからな!」

「過ちって旦那……。うん、まぁ、若気の至りって所だと思うけど、正気に戻って本当に良かったよ」

豪快に涙を流し、ばしばしと二振りの槍を易々と振り回す剛腕がシャーリィの両肩を叩く。正直かなり痛い。叩かれる度に肩から何だか鈍い骨の軋む音が響いてくる。鍛えられている為、そう簡単に折れたり打撲したりしないが、この腕力で幸村はお館様と何時も殴り合っているのか。よく頬骨が折れないものだ。

「……すみません。話が見えないんですけど」

「あ、ゴメンね。勝手に進めて」

そう謝罪の言葉を掛けてくる佐助だが、突如として真田隊と奇襲を仕掛けてきた北条の戦いの真っ只中に現れたシャーリィに警戒していたのは顕らかだった。
本来ならば突如として現れた敵かも知れない人間を生かしておく道理はなく、直ぐ様殺されても仕方がなかったあの状況。背後から気配もなくナイフ(確かクナイだったか?)を首筋に充てられた瞬間、蘇方は死を意識した。開けた目の前で行なわれていた殺戮に動揺し、注意力が散漫になっていたとは云え、自分の背後を取ったのだ。暗殺を生業としたヴァリアーの幹部に直々指導されていた自分の背後に、だ。低く囁かれ、喉を滑る刄に死を覚悟した――が、実際に喉を裂かれる事はなかった。咄嗟の事に返した言葉が母国のイタリア語だったからか、それとも自分の顔が日本人離れした物だったからか、それともその両方だからか。
佐助は一瞬呟いた異国の言葉に惚けたが、姿を現した武田の忍びの姿に次々と周囲を取り囲む敵兵に鋭く視線を移すと、背に背負っていた巨大な手裏剣を鮮やかな手つきで投げ飛ばし次々と切り刻んだ。そしてその深紅の瞳を瞬かせて唖然とするシャーリィの襟首を掴み、

「なんで南蛮の子供がこんな所に居るんだよ」

雄叫び槍と炎を振り回して敵を屠ふる幸村の下へと地を蹴ったのだった。
その後は何だかよく分からない内に話がとんとん拍子で進み、幸村からお館様――武田さんに頼み込み、それを了承されて此処にいるのだ。根が真っすぐで人を疑うと云う事を知らなそうな幸村と、心の内まで見透かす様な、叔父と似た眼差しで自分を見つめていたお館様。右から左へ流れる様に進む会話と内容によく理解出来ないが、自分はどうやら異国から遥々日本に貿易でやってきた子供で、迷子になってあそこにいた。と云う何ともアリエナイ面白設定になっていた。まぁ、下手に違うと訂正した所で意味などなく、更に厄介な事になり最悪殺される可能性を考えれば、そうだと頷いておけばいいや。
その考えが甘かったのか馬鹿だったのか後の祭りだが、これは良かったのだろう。そう前向きに考えなければやってけねぇよ。

「ザビー教の信者だったなんて、そりゃあ過去を消したくなるよ。俺様だったら一生立ち直れない」

「だがしゃーりぃ殿はそれを乗り越え、前を向いて歩いているではないか!某には真似出来ぬ強き心よっ!」

「過去を末梢が前向きかどうか分かんないけど」

ザビー。ちらりと見せられた姿絵に、本気で屈辱を覚えた。なんでそのハゲの信者!?つか自分はそのハゲの信者として、日本にやってきたのかよ!!?
自分の素性を怪しむ佐助が調べた素性は全く赤の他人なのは当たり前に、自分と同じ顔をした人間が過去に居たのかと云う驚き以上に、哀れみをもって語られた素性に本気で泣きたくなった。つか信者になるなら、武田さんか幸村さんがいいよ!(楽しそうだから)


「これから宜しく頼むでござるよ!じぇらしーぴんく殿!」


笑顔で告げられた(多分)洗礼名に、今度こそシャーリィは突っ伏して涙を流した。



(c)ひよこ屋

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