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男主
今日も晴天なり(TF5/プラ)



なんて可哀相な事を、寂しい事を――残酷な事をしたのだろうか。深紅の星々よりも美しい宝石を宿した瞳を悲痛に歪ませ、その激情を現す様に潜められた柳眉ときつく噛み締められた口唇に罪の重さを知る。白陶の様に滑らかで女性と見間違うその細い指は拳を握り、怒りと他の複雑な感情が入り乱れ、小刻みに震えている。『あの日』、過去へと転送される際に神より賜った時空を裂く剣を自分へと突き付け、愛しく誰よりも(幾億の人類や神よりも)何よりも(未来を改変する使命よりも)大切な養い子であり主人は、喉を絞るように叫んだ。

「貴様は俺を裏切った…ッ!何処にも行かぬと、片時も傍を離れぬと、俺の為だけに生き、俺の為だけに動くと約束したのに、裏切ったのだッ!虫けらにも劣る屑以下の存在だ!貴様は!!」

ホセもルチアーノもただ傍観している。原因が何であれ、主人であるプラシドを忘れ、使命を忘れ、『人』として過ごしイリアステルの敵であるシグナーと共にこの『時代』を護る為に奔走したのは事実だ。それは拭い去る事の出来ない罪。主人の目的を妨げ、邪魔をした。あの地獄の様な未来、先に光も希望も見出だせず、戦争と云う虐殺で生き残った幼子は数年の後、同じく戦争で死した。ただ敵を葬るだけに量産されたデュエルマシーンの中、支配階級の人間に仕え身の回りの世話をする為、『感情』と云うプログラムをインストールされた自分に名を与え、道具でしかない自分を機械人形を『個』として捉えてくれた初めての存在。主人として従えと命じながら、親に対する様に甘えた養い子。自分を創造した国が敗国となり、溶かされ新たに兵器となるだけの価値もなく、打ち棄てられた自分に生きる意味を与えてくれたプラシドは、己のアイデンティティそのもの。新たに自分よりも強靱で柔軟な人間に近い身体を貰い、神の意志によって過去を変えるべく再びこの世に蘇生したプラシドは、自分が幼かったプラシドを見付け拾った時の様に、機能を停止しかけた自分を見付け、手を伸ばした。

『何を勝手に壊れようとしている。貴様は主人を残して機能を停止するのか』

嘲りに似た笑み。だが、隻眼となった深紅の左目は優しく揺るまっていた。――そうだ。俺はプラシドの為に生きると、二度も約束した。命令に近い約束だが、近しい者が簡単に死ぬ日常に優しい束縛など意味がないと知っていた。だから、不器用なプラシドは命令と云う強い束縛で自分を縛ったのだ。強くも脆く、矜恃高く独りを恐がる可愛い我が主にして愛し子。そんなプラシドを一人にした。シグナーの隣に立ち、笑っていた。酷く、傷付けた。もし涙腺が存在するならば、幼かった頃の様に泣いていただろう眼差しに、ただ微笑み返す事しか出来ない。

「何を笑っている!忌々しい裏切り者がッ!!」
「そうだな、俺はプラシドを裏切った裏切り者だ。だから、好きに処分すればいい。俺の主人であるプラシドにはその権利がある」
「――なん、だと……ッ」
「目の前から消えろと云うなら、二度とプラシドの前に姿を表さない。『俺』と云う存在その物が煩わしいなら廃棄してくれて構わない。あ、今開発している新たなデュエルマシーンの材料になるのもいいな。俺の身体の素材となっている金属は有機遺伝子を含んだ自己修復が出来る金属だ。数に限りがあるだろうが、より高度な戦術に利用出来る」

プラシドが自分を廃棄するなら喜んでイリアステルに関わるデータから、未来で蓄積された膨大な情報、それらバックデータを含めた全てを完全に消去してから、この時代ではオーバーテクノロジーの固まりである電脳を焼こう。消えろと云うならこの街――いや、国を出よう。パスポートや履歴書など、データの改竄なら寝ていても出来る。姿形も変えたいが、皮膚組織を作り替えるだけの技術も設備もないので無理か。プラシドが何を命じても実行出来るよう、様々なパターンを瞬時に計算。こんな時だけ機械で良かったと思う。効率の良い答えが――



「貴様は……貴様はまた俺を裏切るのか……?」

裏切る?全てを思い出した俺が何をこれ以上、プラシドを裏切ると云うのか。困惑に見返す自分にプラシドは激痛を堪える様に強く剣先はそのままに、拳を握る右手で胸元を掴むと、次の瞬間、

「何処にも行くなとッ、俺の傍を離れぬとッ、俺の為に生きるとッ、俺の――俺を独りにしないと約束したのに貴様は…ッ!また、独りにする気か…ッ!!」

力任せに捕まれたシャツが、間近に迫った深紅へと更に引き寄せられた。自分よりも高くなった背、見惚れる程に端麗になった容姿。『あの日』拾った子供は自分が想像するよりも見事な成長を遂げたが、心だけは『あの日』のまま変わらず孤独を恐れていた。














なんていうか、さぁ…?

「二度も言わせるなと言っているだろうがッ!」

街を歩く名前の腕を掴み引き摺り、時空の隙間から怒りに秀麗な顔を歪ませ現れたプラシドは尊大に椅子に腰掛けると、掴んでいた名前の腕を引っ張り肘掛に凭掛からせ頬を引っ張る。むにゅりと実に気持ち良く掴まれた頬肉に名前は涙目で抗議の声を上げているが無視。プラシドは苛立たしげに鼻を鳴らすと尚、更に抓る。

「いひゃい、いひゃいよぷらふぃふぉ〜」
「俺の命令を訊かぬ貴様が悪いッ!」
「ひゃっへ〜」
「言い訳は訊かん!」

異空間に創られた自分達、イリアステルの居城。プラシドの座る椅子横に設置された宙に浮かぶ半透明な床は、親離れ出来ないプラシドがわざわざ創った名前用の足場。あの日、漸く転送の余波で遮断されたままだったメモリーの自動修復が終了し、眠っていた記憶を取り戻した名前は縋り泣くプラシドと再会した。二度と離れないと、忘れないと散々約束させていた様は何処ぞの口煩い彼女かと思わせる程で、甘やかすからあんな我儘傲慢ちきに育つんだよ。暫らくあのでかい図体が名前の背にへばり着く光景は一生の笑い種だ。今後、ムカついた時はそのネタで揶揄おう。真っ赤になって必死に否定すんだろな。それがまた笑いを誘うってのにさ。後、あのままで良いのに何時もの我儘ぷーに戻ったプラシドは、相変わらずの上から目線で、

「これは俺からの新たな命令だ。シグナー共と……特に不動遊星などと二度と話すな!分かったな!」

と命令していたが、あのプラシドの育ての親で下僕の名前が素直に是と答える訳もなく、

「イヤだ」

見事な即答。プラシドの何とも云えない間抜けな顔は忘れたくても忘れられない。

「確かに遊星達の味方をしてプラシド達の使命を邪魔したのは悪かった。淋しい思いもさせたしな、物凄く反省している。だが、だからといって友人として付き合う位は全然問題ねぇじゃん!断固として断る!」

と軽く拒否。あっさりと笑顔で断った名前にプラシドが怒り心頭で追い駆けっこが始まった時は、未来でイリアステルとして復活した数年を思い出して懐かしくなった。揶揄われてるんだって分かれよ、いい加減さ。

「貴様は俺とだけ話していればいいんだ!」
「うっわー、嫉妬深い女みたいで気っ色悪いよ、プラシド」
「貴様は黙っていろルチアーノ!これは俺と名前、親子の問題だ!」

がしりと襟首を掴み捕獲した名前を連れ、異空間へと消えていったあの時のプラシドと全く同じ表情で怒る光景に、肩を竦め深くため息を吐き出した。




※また殴り書き。家の夢主設定はプラシドがまだ人間だった頃に拾った設定。

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