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☆special☆
第69訓 誠の鎖(山土)リクエスト作品※R15
やを様リクエスト作品(リクエスト内容→山土 エロ無し) ※R15




もともとあまり肌を露出する方ではない。風呂だってみんなとわいわい入るタイプでもない。
けれど、鍵をかけてまで一人で入るとき、湯上りにすれ違うといつも副長の顔が青白い。

俺が気づいていないとでも思っているんですか。

「副長、どちらへ」
「無礼講の会合だ」
そう言って、幕府高官との会合に向かう。隊服ではなく、着流しに高価な羽織を身にまとって。
似合わぬ甘い香水なんかつけて会合だなんて…それで俺をまいているつもりですか。
俺の気持ち、知っているくせに。

「おお、トシ。今日は非番か」
「…ああ、ちょっと一杯引っ掛けてくる」
「楽しんでこいよ」

何も知らず呑気に声をかける局長。
一度だけ口を開いたことがある。
「違います、副長は…っ」
キョトンとして振り向いた局長の向こうから、キツイ眼差が俺を射抜く。
「( 、 、 、)」
声なき声で俺を制する言葉をつぶやきながら。

読心術なんか使えなくたってわかりますよ。
どうしてですか。
どうして貴方はそこまでして。
局長にさえ、本当のことを知らせずに。

何故、一人で背負おうとするんですか。

背中は守らせてくれても、心を守らせてはくれないんですか。
副長、俺は、俺は…

あなたの、ためならば―――

 

ガシャーン
風呂場から聞こえた音に驚いて足早に向かう。
引き戸に力を込めても、ビクともしなかった。

鍵をかけている

心配そうに駆け寄ってくる平隊士を制し、大丈夫だからと通常の任務へ戻らせた。
風呂場の鍵なんて大した作りじゃない。日頃、監察の道具として持ち歩いている針金を軽く曲げ、鍵穴に差し込んだ。
カチャリと音がして難なく開く。もう一度内側からしっかりと鍵をかけ直し、浴室へと足を向けた。

出しっぱなしのシャワーの下で昏倒していたのは、真っ青な顔をし、擦り傷だらけの副長。
コックを捻り湯を止めて抱き上げれば、手首には縛られた赤い痕が残り…首にまで指の跡が痣を作っていた。

こんな…ひどい、こと…。

血の滲む男性器。後ろから流れ落ちる白く汚れた液体。
これじゃ陵辱、じゃないか。

呼び出される度に酷くなっていく。
愛情の欠片もない、行為。

副長だけじゃない、真選組そのものを嘲るかのように嬲られた痕。
「どう、し、て…」
貴方が、貴方一人が、背負わなくてはならないんですか…ッ

強く抱きしめたカラダは冷やりとして、まるで死体のようだった。

そのカラダに生(せい)を流し込むように、水を与える。
己の口に水を含んでから…少し躊躇して…そっとそっと薄く開いた唇に熱と水を流し込んだ。

「…ん…山崎……。ッ、なに、をして…っ」
「副長!気がつい―――」
「…離し、て、くれ」
「副長…ッ」
「離せ」
ドンと体を押され、尻餅をついた。
見上げれば、壁に手をついて支えながら立ちががる姿が湯気の向こうでフラフラと揺れている。

――優しくされたら…折れんだよ…魂が…。
そう小さく呟いて。

それでも眼差しだけはキツく、俺を見下ろしていた。

「出て行け」
「副―――」
「出て行け!」

拳で壁を叩き、はぁはぁと息を乱しながら下された命令。
貴方に命令されたら…俺は逆らえない。

下唇を強く噛んで立ち上がり、濡れて重さを増した隊服のまま、俺は浴室を後にするしかなかった。
濡れた隊服よりも…心が重い。
上司と部下という絶対的な立場の違いが、これほど恨めしいと感じたことはなかった。

もし自分が。
高官達の目を惹くくらい美麗であったなら。
せめて貴方の荷の半分を自分が背負うことはできただろうか。

もし、自分が。
あなたと並ぶ権力を持ち、隣に立っていたのなら。
せめて貴方の添え木くらいにはなれただろうか。

そのどちらも選べぬ自分が悔しくてならない。
何も持たぬ自分が…何もできずにいることに…腹が立って仕方なかった。

「すみません」
そう、貴方の耳に届かぬ言葉を遠くから告げることしかできない自分が、情けなかった。

 

「旦那…」
「よ、ジミー。なんだ、サボりか?」
「まぁ、そんなところです」

あれからどうやってここまで来たのか。
気がつけば巡回ルートを歩いていたようで、とある団子屋の前で風来坊の旦那を見つけた。

「いいですね、貴方は…」
お気楽、そうで。

この人が見た目通りのチャランポランで無い事も、この人の背負っている過去の荷が少なからず重い事も知ってはいたけれど、
醸し出すその柔らかな雰囲気に、思わずポロリと軽率な言葉が口をついて出た。

「監察が堂々とサボりとはね。鬼の副長さんに言いつけちゃうよ?」
俺の嫌味などまるで耳に入っていなかったかのように、ゆっくりとしたいつもの口調で返される。
「いいですよ、別に…」
今の副長に何を告げ口しても、咎められる気がしない。

「ほい」
「は?」
「食え」
差し出されたのは、甘い甘い餡子の乗ったお団子。
きょとんとしていたら、いきなり口の中に突っ込まれた。
「うぐ…」
「どうせお前の金だ、たんと食えや」
…どうやら奢らされるらしい。
ちゃっかりしているというか、なんというか。だけど、何故か憎めない。

「依頼料の前払いな」
「は?…もぐ、もぐ…依頼?なんのことで…」
「まぁ話してみなさいよ。万事屋銀ちゃんが団子30本で愚痴聞いてやっから」

30本?
土産用までオーダー済みかよ。

…でも…この人、なら…。

俺は名前を伏せ(あまり意味をなしていないが)、思いの丈を打ち明けた。
途中何度も言葉がつまり、団子の串を強く握り締めながら。

どれだけ時間を使っても、どれだけ無言の間が続いても、
旦那は一言も発しない。ただずっと青い空を見上げながら、耳だけを傾けてくれていた。

 

「お前、何びびってんの?」
全てを吐き出してから掛けられたた第一声。
言葉の意味がわからず、視線だけを向ける。

「まぁでも、怖ぇよな。他人の壁ぶち破んのは…」

“でも…”
相変わらず空を見上げながら、旦那が言葉を続けた。
今度は俺が一言も発せず、耳を傾ける。

「ぶち破られる方も、怖ぇもんだ」

旦、那…?

「それが年上だったり、立場が上だったりすれば尚更な。でもよ、その壁ぶち破ってくれたヤツの言葉ってのはズシリと響くんだよ。ココに」
トントンと、心臓を拳で叩く。

「アイツ等はまだガキで、神楽はともかく新八は俺よりずっと弱い。刀ではな。だけど…」
そう言って眩しそうに目を細め口元を緩ませる。
キラキラと太陽を反射させた赤い瞳が、まるで夕焼けのように温かく感じた。
とても優しくて、とても嬉しそうに微笑む旦那の顔。
そうか、新八君やチャイナさんの話をするときは、こんなふうになるんだ。

いいな…。
あの人は、俺の事をこんな目をして話してはくれまい。

「だけど、あいつらはいとも容易く俺の壁をぶちやぶって、溶け込むように入って来た。…入ってきてくれた。そうやって壁の内側に入って来たヤツの言葉ってのは魂を直接揺さぶる」
「…魂…」

 

――優しくされたら…折れんだよ…魂が…。

 

「ああ。年齢とか立場とか、ンなもん関係ねぇ。俺はあいつ等の存在や言葉や魂にいつも、救われてるよ」
「旦那ほどの人が、ですか」
「ぶはっ。お前、俺をなんだと思ってんの?どんなヤツだって1人の人間だ。上も下も横も前も後ろもねぇ。そんなもの、人間が勝手に決めた事だろ」

1人の、人間…。
そうだ、副長だって“副長”って生き物じゃない。
土方十四郎という、1人の人間なんだ。そして、俺も…。

「臆する事はねぇ、遠慮もいらねぇ。そいつの壁ぶち壊して魂揺さぶりたいなら、全力でぶつかれよ。弾かれても、殴られても。…大事なヤツ、なんだろ?」
「旦那…」
「…失いたくないなら、逃げるなよ。失っちまってから後悔だけは…するな」

団子の串を咥えながら振り向いた旦那は少し寂しそうで。
きっとこの人は、自分の体験を話してくれたんだと思った。
…いるんだ、失ってしまった大事な人、が。

パンパンッとお尻を叩いて立ち上がる。
何をしたらいいかなんてまだわからない。
でも、失いたくないなら逃げていては駄目なんだ、壁にぶつかって行かなければ。それだけは分かった。

「旦那、ありがとうございました!」
「偉そうな事言っちまったな。簡単なことじゃねぇのに」
「いえ、とても参考になりました」
「団子30本分くらいはなったか?」
「足りないくらいですよ」
「…そうかい」

よいしょと立ち上がった旦那を見上げる。そんなに大した身長差ではないのに大きく見えるのは、この人が背負う荷の重さのせいだろうか。
「なぁんだ…」
「あ?どうした?」
「いえ」

くすりと笑った俺を不思議そうに旦那が見つめた。
その瞳をまっすぐに見て
「貴方に比べたら、あの人の方が近い気がします」
「は?」
「身長差」
「へ?あれ?同じくらいじゃね?」
「そういう意味じゃありませんよ。じゃ、俺行きますね」
「おう。ご馳走さんな」
「いえ、こちらこそ」

 

確かに副長が背負っている荷は大きく、そして重い。
俺なんかとは比べ物にならないものを背負って、必死に立って走っている。

それでも、今ならまだギリギリ追いつけそうな気がした。
旦那に追いつくよりも、少しだけ近い気がした。

あの子供達にできたこと、俺にできないはずが無い。
副長を大切に思う気持ちは、誰にも負けていないのだから。

「ジミー!」
「え、あ、はい。なんですかー?」

少し距離のできた後方から、旦那が俺を呼び止める。

「足りない分の団子、今度は万事屋に持って来い。マヨネーズと一緒に、な」
「ぶっ…はい!わかりました。必ず!」

傾き始めた太陽を背に足早に屯所へ向かう。
傷だらけのあの人を抱きしめるために。

もう、叱っても、殴っても無駄ですからね。
俺はこれからも副長の背中を守りながら、魂は隣に並んでみせます。

貴方を救う術はまだわからないけど、全力で支えますから。
その魂、俺が守ってみせますから。

「まずは、傷の手当て、かな」

 

副長…

いや、土方さん

俺は、貴方の魂が、大好きですよ―――

 

[END]
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初リクエスト、初山土でしたァ!
エロ無しで『監察Yの献身』が見所と仰っていたので、あまりラブラブ感を出さず
「山→→(←土)」くらいで書いてみたのですが、いかがでしたでしょうか((((;゚Д゚))))オロオロ
もっと甘い方が良かったのかなァ…。しかも銀さんの方が喋ってるwww
いや、リクは山土でしたが、銀さんファンでいらっしゃるので、かなりいいポジションで出してみました。
こんな銀さん書いたの初めてで、それも凄く新鮮で楽しかった!!

山土は、多分、他のサイト様でも読んだ事がなくて、そうとう真っ新な脳みそです。
どんな山土がメジャーなのかも全然わからず…。そういう意味では、私的になんの先入観もなく書いたわけですが、
非常にすんなり書けてしまったんですよ。不思議ですねぇ(*´∀`*)

やをさん、素敵なリクエストをありがとうございました。
お気に召していただけるかわかりませんが、受け取っていただけたら嬉しいです。
勿論、返品可ですので!!

土銀メインサイトですが、読んで下さった方がいらっしゃいましたら、ありがとうございましたvv

リクエストは大変勉強になりますので、全力でお待ちしておりますぅぅぅぅ!
やをさんももしよかったらまたいつでもwww
よろしくお願いしますm(_)m

2013.1.11 エル


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